
UXライティング・ハブ創設者、ユヴァル・ケシュチャーさんへのインタビュー
Apr 21, 2021こんにちは!では、まず簡単に自己紹介をお願いします。
UXライティング・ハブ(UX Writing Hub)の創設者、ユヴァル・ケシュチャーと申します。イスラエル出身です。現在は、企業とフリーランス向けのUXライティングの研修と講座を提供していて、誰もがUXライターとしてのキャリアを歩めるようにお手伝いをしています。私は、これまで様々なWebサイトを作るプロダクトデザインの道を歩んできました。たとえば、イスラエルで生まれた最大のEコマースストア、Soda Streamです。また、Writers in TechというUXライティングのポッドキャストを運営しているので、もし英語を話せるのならチェックしてみてください。画像引用元:Mr Koreander /Tobias van Geijn
ありがとうございます。あなたが初めてUXライティングを知ったのはいつ頃で、どのように最初のステップを歩んだのでしょうか?
私はグラフィックデザインからUXデザインの道へと進みました。そこで私は、Webサイトやアプリをつくるときに、ほとんどの人がテクノロジーやマイクロコピーに十分な注意を向けていないことに気づきました。
もっとよく知るために、とあるポッドキャストを聞いたんです。キネレット・イフラさんのポッドキャストでした。彼女の語る、刺激的なマイクロコピーの話に驚かされました。
それ以来、私はもっと多くの人々にマイクロコピーについて教えるべきだと思いました。また、デジタルプロダクトを作るにあたって、テクノロジーにおけるライターの未来と、テクノロジーの中で働くライター、両者に大きなギャップが生じていることにも気づきました。
そこでまずは、Facebookグループを作ることにしました。マイクロコピーに関して何らかのアクションを起こしているあらゆる人をFacebookグループに招待したのです。そしてこれが、のちに世界最大(1万6000人)のUXライターによるディスカッショングループになりました。
Microcopy & UX Writing Facebook Group: 英語版|日本語版
では、イスラエルのUXライターのコミュニティはどうですか?
イスラエルでは多くの企業がUXライターを雇っていて、だからこそ、素晴らしいコミュニティがあります。さまざまな場所でディスカッションが行われていることもあり、Booking.com も DropboxもUXライターを採用しています。
イスラエルにはヘブライ語のコミュニティが別に存在したり、ミートアップも活発に行われていますよね。UXライティングの分野において、イスラエルが世界を牽引しているように感じます。なぜそのように見えるのか、あなたは分かりますか?
これは、とても興味深い質問ですね。私が思うに、イスラエルの人々は言葉に対して何か特別なものを持っていると思います。言葉を書くのが好きで、言葉を探求するのも本当に好きです。
ヘブライ語が多くの変遷を辿ってきたように、最初は聖書の言葉として誕生しましたが、今では誰もが話す共通言語のようになっています。地元のコミュニティや、熱心なディスカッションによって、私たちがそのように見えるのだと思います。
日本では、UXライターの雇用は今のところ少数ですが、欧米圏ではポジションに空きがあるようです。世界の市場では、UXライターが不足しているのでしょうか?
はい、十分な数のUXライターがいるとは言えません。もっと多くのUXライターが求められています。一番の理由は、この分野で働く人々を育てるための十分な研修プログラムが無いことですね。
学校のような場所では何も学べません。私がオンラインプログラムを始めたとき、需要はそこまで高くありませんでした。UXライターの必要性について、もっと企業に対し教育する必要があります。
わたしがNissanに訪れた時、彼らがもっと多くのUXライターを必要としていること、また既にUXライターはいるが、そこにはギャップがあることを理解しました。そのギャップを研修プログラムによって埋めているのです。
その原因のひとつは、UXライターの必要性について共通認識がないことです。そのため100人のデザイナーに対し、1人のライターを雇うという状況になります。企業は「これで十分だ」「これは正しいやり方だ、これで何でもできる。」と考えるのです。
しかし、それは正しいとは言えません。企業はライターに、テクニカルライティングやEメール用のコピーライティング、Webコピー、ランディングページ、Eメール、そのすべてを書いて欲しいと言います。会社の規模にもよるでしょうが、これらすべてをこなしていくには、ライターとしてかなり献身的に働かねばなりません。人々はライターを雇って「全部やってね、全部できるでしょう」と告げるのです。これは多くのライターが抱える課題です。
フリーランスのUXライターが大企業のチームに参加するとき、難しい部分となるのはどんなことでしょうか?
こんな状況を想定してみましょう。
フリーランスのライターとして雇われて、仕事する場合もあれば、契約社員としてチームと一緒に働くこともあります。また、リモート・フリーランスとして、自宅で働くこともあります。いずれにせよ、デザイナーの隣にライターが座っているような状況です。多くの企業はフリーランスのUXライターとどのように仕事すればよいか理解しているはずです。
ですが、彼らはスクリーンショットのみを送り「ここに何かマイクロコピーを入れてくれ」と言うのです。こうした瞬間が、最も難しい部分になるでしょう。なぜなら、あなたにはまずコンテンツが必要であり、デザイナーと協力する必要があり、大きな流れの中で仕事に取り組まなければならないからです。脈絡もなく何かをすることはできません。
私がUXデザインを始めたときのことを思い出します。彼らは画面を見せ、これは見苦しいから何かUXを、と言いましたが、実際にロールプレイングはしませんでした。まずはリサーチをする必要があります。そして、ユーザーにとって何が本当にベストなのかを聞く必要があります。いきなり書くことはできませんからね。これがフリーランスとして企業に加わる上での、最大の課題です。
ありがとうございます、では次の質問です。UXライティングの観点から、ユヴァルさんにとって一番印象的なWebサイトやモバイルアプリは何ですか?その理由も教えてください。
そうですね、一般的な例を挙げるとやはりメールチンプです。誰もがメールチンプの素晴らしさについて話してますよね。彼らは非常にたくさんのプロダクトをリリースしていて、一貫性を保っていますし、素晴らしいと思います。例えば、ミュージシャンの同意を得て契約を結ぶ方法を提供する、素晴らしいYouTube動画もあります。
それからヘッドスペース。
ヘッドスペースは瞑想アプリです。私が気に入っているのは、彼らのゴールが、ユーザーの人生をより良くすることだからです。もちろん彼らもセールスする必要がありますが、やみくもにお金を取ろうとはしません。あなたを操ろうとするのではなく、人生の役に立つ通知やメールを送ってくれます。すべてが素晴らしい、魅力的な仕事をしています。
それから、私が好きなのは フォレストです。仕事や勉強に集中するのを手助けするアプリで、25分間スマホに触らずにいると木が植えられます。25分以内に携帯に触れると、その木は枯れてしまいます。その後、日中、携帯に触れることが無ければ、あなたは集中力を維持できたことになります。フォレストはとても良いアプリです。
では、UXライティングの分野に足を踏み入れるにあたっておすすめの書籍はありますか?
キネレットさんのマイクロコピーの本「Microcopy: The Complete Guide (邦題:UXライティングの教科書 ユーザーの心をひきつけるマイクロコピーの書き方)」をおすすめします。素晴らしいですよ。みんな読むべきです。
あと、エリカ・ホールさんの「JUST ENOUGH RESEARCH (仮邦題:最適なリサーチ方法)」もまた良い本だと思います。ほかにはスコット・キュービーさんの「Writing for Designers (仮邦題:デザイナーのためのライティング) 」という本当に役に立つ本があります。私はビジネス書を読むのも好きなんですよ。マイクロコピーではないのですけど。
エリカさんのリサーチ本、まだ読んだことがないので読んでみますね。ではインタビューの締めくくりとして、UXライターを志す日本の人々に一言お願いします。
今後、日本でもUXライターの持つ役割はとても大きなものになると思います。なぜなら、今から2、3年後には、フリーランスのUXライターを雇う会社は1、2社ではなくなるからです。
4年前、私はUXライターの募集がほとんどない状況を見てきましたが、企業がUXライターを採用するようになることはわかっていました。その点、私は正しかったと言えるでしょう。皆さんに伝えたいのは、
いずれ多くの日本企業が、UXライターを雇い、優秀な人材を確保しようとするということです。あなたは今、そのリストのトップにいるでしょうし、日本で一番になりたいと思うようになるでしょう。今こそ絶好のチャンス、ゴールドラッシュなのです。