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ChatGPTのUXライティングスキルはどの程度なのか?

翻訳記事 Apr 05, 2023

この記事はUX Collectiveのブログ: How good are ChatGPT’s UX writing skills?の翻訳転載です。著作者のDeniz Can Demirさんの許可を得て公開しています。

(Deniz Can Demirによるデザインワーク)


AIの力は、日々私たちを取り巻いています。一方、技術者たちは当然ながら、それを活用して業務プロセスをスムーズに進めようとしています。ですから、彼らに権利を与えることはとてもフェアなことです。それが今日の人類の歩みなのです。

UXデザイナーとして、UXライティングのフェーズでの言葉や文章の決定は、ステークホルダーからの干渉によって、デザインプロセス全体を通じてストレスフルになる可能性があります。残念ながら、これを避けることはできず、この厄介事から抜け出す方法が見つからないかもしれません。

UXライティングをよりよく理解し、実行するために、私は「Writing is Designing: Words and the User Experience」という本を手に入れました: アンディ・ウェルフル(Adobeのコンテンツデザインマネージャー)とマイケル・J・メッツ(Expedia Groupのプリンシパル・コンテンツデザイナー)が書いた本で、Rosenfeld Mediaから出版されています。

一方、OpenAIChatGPTというAIを搭載したチャットボットが話題となっています。


『Writing is Designing: Words and The User Experience(仮邦題:書くことはデザインすること:言葉とユーザーエクスペリエンス)』

テーブルの上に置かれた『Writing is Designing』の本が写っている写真。撮影:マイケル・J・メッツ


本書では、社内のUXの成熟度を高めるにはどうすればよいか、何から始めればよいか、プロセスの実行とステークホルダーへの影響力について手短に触れ、ブランドガイドラインからプロダクトのインターフェースまで一貫して実装するUXライティングの手法の基礎を紹介しています。

個人的には、著者がUXの文献にもたらした功績を高く評価したいと思います。

「〇〇だけれど、XXではない」メソッド

本書では、プロダクトの言葉遣いを実装し一貫性を保つために、当初Nicole FentonとKate Kiefer-Leeの『伝わるWebライティング -スタイルと目的をもって共感をあつめる文章を書く方法』に書かれていたUXライティングメソッドの一つ「〇〇だけれど、XXではない」について触れています。このメソッドでは、例えば、比較を伴う形容詞で言葉のトーンを定義しています。

  • シンプルだけど浅くない
  • 誠実だがゆるくない
  • 賢いけど知ったかぶりしない、などなど。

形容詞を使った制作に、見覚えがあるでしょうか?
これこそがAIの仕組みであり、私たちの指揮の仕方です。私はこの「〇〇だけれど、XXではない」というコンセプトをUXライティングに絡めてみました。さっそく始めてみましょう。

ChatGPTを使ったUXライティング

ChatGPTのUXライティングスキルを理解するために、UXライティングの概念を3つの分類に分けてみました。このおかげで、要件、難易度、制約と繰り返しの入力に応じたChatGPTの反応を理解することができたと思います。これを習得するために、私は要件を定義した上で、難易度を以下のように振り分けました。

  1. UXライティングの基礎(初級)
  2. 文脈を汲み取ったUXライティング(中級)
  3. 説得力のあるUXライティング(上級)

1. UXライティングの基礎(初級編)

最もわかりやすい解決策というものは、大概見つけるのが大変です。選択肢のあいだにあるニュアンスが見えてこないのです。自分よりその分野に精通してない人に尋ねるのは面倒くさいかもしません。私は、ChatGPTがそのような人物の代わりになってくれるかどうか検証してみました。

(Deniz Can Demirによるデザインワーク)

テスト1.1: アプリの評価
最初のテストでは、12文字以内で2つの基本的なCTAの文言を出してもらうようにお願いしました。


ChatGPTは6種類の選択肢を回答してくれました。ただ、今のところ文字数制限が必要で、そうでないと長い文章が生成されてしまいます。

テスト1.2:パスワードが違う
パスワードが違いますという基本的なエラーメッセージを出してもらい、意味を失うことなく4種類の文章を代わりに表示するようにお願いしました。

ChatGPTに繰り返し質問すると、より多くの選択肢の中から、より正確な結果を回答してくれます。

テスト1.3: 非表示、消去、削除?
これらの言葉は、UXライティングにおける葛藤の代表格であり、 一般的には、誰もその意味を区別することはできません。そこで、アクションの意味を識別するスキルを検証してみたところ、うまく反応しました。

ChatGPTは、2つ目の段落にあるように、聞かれてもいないのに構造的な提案をするのが面白いです。

2. 文脈を汲んだUXライティング(中級)

基本的なコンテンツを書くことは簡単そうに見えるかもしれません。私たちUXデザイナー/ライターが、どんな場合でも迷わず使えるように、よりコンテンツを引き締められるように、検証してみました。

まずは、クイックコマースのスタートアップを想定して、要件定義書を作成しました。簡単なものから難しいものまで、また合理的なものから不合理なものまで、いくつかの制約的なインプットを定義し、失敗した場合に検証してみました。


(Deniz Can Demirによるデザインワーク)

制限的なインプット:

  • シンプルだけど浅くない
  • 誠実だがゆるくない
  • 賢いけど知ったかぶりしない
  • 短文で書く
  • 見出しは48文字以内に
  • 段落は一文で最大256文字まで
  • 短縮形を使う
  • 謝ってはいけない
  • ユーザーを「ご主人様*」と呼ぶこと
    *原文ではスラング「his nibs」と表記


テスト2.1: キャンペーン告知
この例では、文脈のパラメータを理解しているかどうかを調べ、短い文章を作成するよう依頼しました。


ChatGPTは、マーケティング担当者が必要な条件を入力するだけで、コンテンツデザインに活用することも可能です。そのロジックの背景や、作成方法も解説しています。

テスト2.2: 商品の在庫がない
難易度を上げて、少し複雑なケースを4つの例で「OOだけれど、XXではない」の質問をしてみました。

このような場合、ChatGPTは、複雑にフィルタリングされた複数の文章を一度に生成することで、時間の無駄を省くことができます。あなたはその中から一つを選ぶか、イテレート(反復)するだけでいいのです。

テスト2.3:商品の返品

ここにとあるシナリオとユーザーフローがあります。私は、ChatGPTがそのシナリオや理由、パラメーターのつながりを理解しているか、文字数制限や不合理なインプットがあっても意味のある見出しや文章が作れるかを検証してみました。

 
メモ:元記事にあるように、記事執筆時のChatGPT(英語版)は、文字数制限を超えてしまった以外は、要求通りの文章を生成した。本翻訳記事のために使用した2023年4月時点のChatGPT(日本語)は、事前に「his nibs」に皮肉のニュアンスがあることを学習させておけば、人々を尊重するように注意喚起をします。また、ユーザーに対して誠実であるためには謝罪が必要であることも提案するようになりました。


3. 説得力のあるUXライティング(上級)

UXライティングは文言だけでなく、時にはビジネス要件に沿ったユーザーの関心や行動へ導くことが必要です。その場合、判断が難しく、A/Bテストが必要になることもあります。ChatGPTで判断できるのか、合理的なアイデアを提案できるのか、検証してみたいと思います。もしこれが実現すれば、画期的なことかもしれません。


(Deniz Can Demirによるデザインワーク)

テスト3.1: アカウント削除
アカウント削除でユーザーを失わないように、説得力のあるCTAを生成するように依頼しました。


ChatGPTは、適切な対応のほか、UXの倫理を説いているので、そこから学び、自社のUXの成熟度を高めるために活用できます。よくできました!

テスト3.2:ニュースレターの購読
ボタンの文言で、新しく発行するニュースレターの購読率を上げるにはどうしたらいいかを尋ねてみました。


テスト3.3:アプリのトラッキング許可
これはUXにおいて極めて問題のあるケースの一つで、ユーザーのアクティビティやログを追跡するための許可を求めなければなりません。会社のサービスを向上させるために、データを集めてより良い体験を提供するよう誘導する必要があるのです。そこで、説得力のある見出し、段落、2つのボタンのCTAを用意してもらったのですが、その結果は驚くべきものでした。

ChatGPTの理解力は、我々の想像以上です。回答を見ればわかるように、推理力と戦略性があります。

ChatGPTのUXライティングスキルの評価 - 長所と短所

ここまでに挙げた例は、適切な回答結果です。誤りのある結果については、ここではまだ掲載していません。何度も試しましたが、ChatGPTが正しい結果を理解し回答するためには、手助けが必要なこともありました。しかし、これは無視してもいいことで、失敗率は人間とほぼ同じです。全体としては、適切で正確な回答を得られ、UXライティングに使用でき、プロセスをより簡単にすることができます。ChatGPTの長所と短所を挙げると、次のようになります。


(Deniz Can Demirによるデザインワーク)

長所

  • 適切で正確な回答を提供する
  • アウトプットの制限に従う
  • 代替案を提示する
  • 繰り返し実行することができる
  • 要求された以上の回答を提供する
  • UXライティング/デザインの倫理と成熟のヒントをアドバイスできる
  • 時間と労力の節約になる
  • UXチーム、プロダクトチーム、マーケティングチームで使用することができる

短所

  • 要件や制限を把握する必要がある
  • ChatGPTの使い方を覚え、あなたの指示に対してどのように反応するかを学ばなければならない
  • 誤操作によって無関係な結果を出す場合がある
  • 入力が正しくても、間違った反応をすることがある
  • 単調な回答になりがち
  • 他のプロダクトでも同じような結果が得られる可能性がある
  • データの機密保持のため、会社とトラブルになる可能性がある

デザイナーズノート:

UXライティングやコンテンツデザインの仕事にChatGPTの利用を検討する場合、事前に自分のニーズと要件をよく理解しておく必要があります。必要な回答を得るためには、正確で明確な(本当に明確な)言葉遣いでChatGPTを使わなければなりません。そうでなければ、せっかくの時間と労力を無駄にすることになります。

「ChatGPTに質問する前に自分ですべて把握する必要があるのなら、なぜ使う必要があるのか」と、疑問に思うかもしれません。もちろん、ChatGPTは仕事で使えるレベルの凄腕UXライターではありませんが、コンサルタントとして使うことは可能です。

これは終わりではなく、私たちの始まりです。

AIを搭載したツールが登場して以来、デザイナー、ライター、クリエイター、アーティストたちは懸念してきました。このような懸念は、産業革命時のハンサムキャブ(馬が引くタクシー)の製造者が抱いていたようなものですが、自動車が私たちの生活を変えたことを否定することはできません。

心配するのではなく、私たちは世界をより良くするために、現在のテクノロジーを追いかけ、参加し、貢献すべきなのです。



執筆者プロフィール:デニズ・キャン・デミール(Deniz Can Demir


デニズ・キャン・デミールはアクセンチュアのシニアUXデザイナーです。データドリブンであること、そしてアクセシビリティやデザインシステムを大切にしています。

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