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代替テキストで人種について記述するケース

代替テキストで人種について記述するケース

翻訳記事 Mar 30, 2022

この記事はShopify UXのブログ: The case for describing race in alternative text attributesの翻訳転載です。著者のトル・アデグバイトさんの許可を得て公開しています。

デザイナーや開発者は、社会のスタンダードを形成する大きなパワーを持っています(出会い系アプリ無しで出会った20代カップルに最後に会ったのはいつでしょう)。また、コンテンツの消費者のためにストーリーを作り、ある種のリアリティを作り上げることにも大きな影響力を持っています。代替テキストは、デザインされた現実を物語る、その一端を担っています。

代替テキストとは何でしょうか?

代替テキスト(alt属性)とは、画像にプログラムで紐づけられたラベル(説明文)のことです。スクリーン(画面読み上げソフト)を利用しているユーザー、あるいは画像を読み込めないユーザーが、画像を見ずにその中身を知ることができるようにするためのものです。

代替テキストが記述された壊れた画像は、次のように見えます。

壊れた画像の例

代替テキストによって、スクリーンリーダーのユーザー(全盲やロービジョンの可能性があるユーザー)は、画像の中身を知り、その画像が使われている背景情報を拾い集められるようになります。代替テキスト属性がないと、スクリーンリーダーのユーザーは画像に何が写っているのかわからないかもしれません。

正確な代替テキストがないと、スクリーンリーダーのユーザーは、画像について間違った情報を受け取り、コンテンツを認識してしまう可能性があります。

 

「代替テキストの書き手は、スクリーンリーダーのユーザーが得る体験と認識を形づくる力を持つ」

 
私は、プロダクトデザイナーでありアクセシビリティの提唱者のトルです。この記事では、代替テキストが持つ幅広い意味合いと、私たちが仕事で取り上げる人物を表現する方法についてお話しします。

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もしあなたが白人なら、人種について考えたり話したりすることはあまりないかもしれません。

もしあなたが有色人種で、特に(私のように)黒人であれば、おそらく人種について常に考え、話していることでしょう。

人種に関する思い込みは、私たちの世界観に大きな影響を与えるため、実際に直面しない限り見過ごしがちです。

私は人種についてよく考えなければなりません。なぜなら、人種は私自身に影響を与えるからです。自分がどう見られるか、キャリアで成功するか、安全かどうか、そして他の人々との交流の多くが、私の人種に影響されるという事実に対処しなければならないのです。

幼い頃、私はいつも本を読んでいました。しかし、学校の図書館で手に入るほとんどの本で、登場人物は白人として描写されているか(「流れるようなブロンドの髪、青白い肌、見開いた青い目」)、人種を明確にしないが白人であることをほのめかすような描写(「ねずみ色の髪、茶髪」)でした。

私は中学生になるまで、黒人の主人公が登場する本を読んだことがありませんでした。実際に読んでみて、びっくりしました。黒人を描いた本があるなんて知らなかったからです。白人がデフォルトとして押し付けられることが多かったので、黒人について書かれた本や、黒人を中心に展開する本があるとは思いもよりませんでした。

白をデフォルトにすると、このような世界が生まれます:有色人種は、自分たちがよそ者であり、標準的ではなく、奇妙な存在であり、子どもたちは自分と同じような人たちの話はないと思っているような世界です。

ストック画像と代替テキスト

デザイナー、開発者、ライター(そしてさまざまな分野の作り手)である私たちは、「普通」とは何か、という絵を描く力を持っています。白人のストック画像だけを使うことで、私たちは「白人が普通である」という物語を押し付けることになります。それ以外のものは異常なのです。

白人の画像だけを使ったり、白人だけを中心としたペルソナを作ったり、常にヨーロッパの伝統的な名前の偽のユーザーネームを使ったり、白人モデルだけを使ったりすると、そのような物語に加担することになるのです。


同じコンセプトが、代替テキストにも当てはまります。画像に写っている人の人種を記述しないと、私たちの社会がデフォルトとみなすもの(通常は白人)がデフォルトであるという物語を押し付けてしまうことになるのです。私たちは、他の人々を排除し、目に見えないようにしています。

 人権弁護士で講演者、書籍『Haben: The Deafblind Woman Who Conquered Harvard Law』の著者でもあるハーベン・ギルマは、Twitterにこう投稿しています。

『盲目の人が私を「白人だと思った」と言うのには慣れているので、今更驚きません。画像を説明するときは、人種を省略しないようにしましょう。害のある思い込みの余地を残さないために。』

ハーベン・ギルマのツイートのスクリーンショット

ハーベンの経験は、人種について議論し、白人をデフォルトとしないことが重要である理由を完璧に示しています。

代替テキストをよりアクセシブルで交差性のあるものにし、私たちの社会がどのように見えるかを仕事に反映させましょう。

次のことを行う必要があります。

  • 画像の被写体の人種(可能であれば性別も)を記述してください。大切な文脈です。
  • 例を作る時、白人やヨーロッパ人をデフォルトにしないこと。
  • 私たちの選択が人々の認識に与える影響を考慮する:白人の被写体だけを使った人気のあるアプリは、人々が「普通とは何か」を認識することに大きく寄与する。

代替テキストに人種を記述する

代替テキストは、一般的に、簡潔であり、文脈に沿ったものです。以下に、代替テキストがどのようなものであるかの例を挙げます。

リトルロックの9人のうちの一人である黒人女性エリザベス・エクフォードは、白人群衆の前を歩き、その後ろで白人女性が叫んでいるリトルロックの9人の一人、エリザベス・エクフォード
(出典: U.S. Embassy The Hague. CC BY-ND 2.0.)


人種に言及しない代替テキスト:
群衆の前を歩く女性と後ろで叫ぶ女性

人種に言及した代替テキスト:リトルロックの9人のうちの一人である黒人女性エリザベス・エクフォードは、白人群衆の前を歩き、その後ろで白人女性が叫んでいる


エリザベス・エクフォードは、アメリカの公立学校における人種隔離が違憲とされた後、アーカンソー州リトルロックにある白人だけの学校に入学した9人の黒人生徒(通称リトルロックの9人)の一人です。白人の生徒や大人たちが彼女を嘲笑い、やじを飛ばす中、彼女が学校に向かって平然と歩いているこの象徴的な画像は、写真に写っている人々の人種を省くと、その文脈とニュアンスを大きく失ってしまいます。

この例では、被写体の人種を省略すると、この公民権時代の闘争から、最も重要な文脈の一部が省略され、不正確な物語を生み出すことになります。

3人の白人連邦保安官に挟まれながら、学校の階段を下りてくる(若い黒人少女の)ルビー・ブリッジスルビー・ブリッジス、白人ばかりの小学校に通う最初の黒人児童
(出典: U.S. Embassy The Hague. CC BY-ND 2.0.)


人種に言及しない代替テキスト:
スーツ姿の3人の男性に挟まれながら、学校の階段を下りてくるルビー・ブリッジス

人種に言及した代替テキスト:3人の白人連邦保安官に挟まれながら、学校の階段を下りてくる、黒人少女のルビー・ブリッジス


ルイジアナ州ニューオリンズの白人ばかりの小学校に、黒人として初めて通うことになったルビー・ブリッジス。彼女の人種と、彼女を怒れるデモ隊から守るために配置された連邦保安官の人種を省くと、この画像からは誤解を招く物語が生まれます。画像に写っている人々の人種を含めることで、目の見えない読者は、画像とその歴史的背景をより詳細に理解できるようになり、目の見える読者は、簡単に同じ文脈にアクセスできます。

「白人女性、有色人種の女性」「白人男性、有色人種の男性」の看板の間に「有色人種」と書かれた水飲み場があり、そこで水を飲む黒人男性「有色人種用」の水飲み場で水を飲む黒人男性。(出典: Russell Lee via Library of Congress. Prints & Photographs Division, FSA/OWI Collection, LC-DIG-fsa-8a26761, used under public domain.)


人種に言及しない代替テキスト:
水飲み場で水を飲む男性

人種に言及した代替テキスト:「白人女性、有色人種の女性」「白人男性、有色人種の男性」の看板の間に「有色人種」と書かれた水飲み場があり、そこで水を飲む黒人男性


この画像に写っている男性の人種や、水飲み場のラベルを記述することで、この画像に全く別の意味、そして歴史的にもより正確な意味を持たせることができます。

画像に写っている人物の人種の詳細を含めないことは、その歴史的文脈の重要な事柄から画像を切り離すことになります。

これらの例では、人種に関する詳細を省くことは、よく言えば十分に具体的ではなく、悪く言えば不正確で、誤解を招き、目の見えないユーザーには、目の見えるユーザーに語られるストーリーとは、異なるストーリーを伝えてしまうことになるのです。

代替テキストはユーザーエクスペリエンスの一部です

あなたがデザイナー(コンテンツデザイン、UXデザイン、ビジュアルデザインの分野にいる人)であれば、選択した画像にどのような代替テキストを使用するかを、開発チームに知らせるべきです(画像は装飾のためか、否かの情報など)。また、画像が使用される具体的な文脈や目的に応じて、代替テキストを提供する必要があります。

代替テキストの記述は、ユーザーエクスペリエンスの一部であり、ユーザーの、コンテンツに対する理解を形作るものであるため、デザイナーは積極的に関与する必要があります。


代替テキストで人種を説明することは、テクノロジーがユーザーに影響を与え、その世界観を形成することができる重要な例です。

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デザイナーとして社会に与える影響について意識的に考え、害を最小限に抑えることが大切です。代替テキストの使用方法をより意識的なものにすることは、出発点として素晴らしいことです。ユーザーにできるだけ多くの関連情報を与えることで、画像の背後にある、ストーリーを理解するための文脈を提供できます。

 


執筆者プロフィール:トル・アデグバイト( Tolu Adegbite 

トル・アデグバイトはアクセシビリティのスペシャリストであり、Shopifyのプロダクトデザイナーです。フロントエンド開発のバックグラウンドを持つトルは、人々の生活を快適にするプロダクトをデザインしています。

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