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36%が魔法の数字である理由:モバイルアプリに適したテキスト量とは

36%が魔法の数字である理由:モバイルアプリに適したテキスト量とは

翻訳記事 Feb 02, 2022

この記事はInside Intercomのブログ: Why 36% is the magic number: Finding the right amount of text in mobile appsの翻訳転載です。著者のジョナサン・コルマンさんの許可を得て公開しています。

私は、25の人気iOSアプリの最初の画面で、どれだけのテキストが使われているかを調査しました。その結果、モバイルアプリのテキストを書く際、ある原則に則ったアプローチが有用であることがわかりました。なぜなら、プロダクトデザインにおいては、なんといっても言葉がすべてだからです。

モバイルアプリは、私たちのデジタル体験の大半を占めています。2019年にGoogleとAppleのアプリストアでは、過去最高の2040億個のアプリがダウンロードされました。ざっとGoogleで検索し、電卓で計算すると、地球上の人間1人につき平均25個のモバイルアプリをダウンロードしたことになります。


“コードでもなく、ビジュアルやインタラクションでもなく、これらすべてのアプリに共通するものが、テキストだ”

 

私はこれまで、自分の携帯電話にもっと多くのアプリをインストールしてきました。全部合わせると、その数は161個になります。映画、音楽、天気予報、地図など、私は何にでもアプリを利用しています。ソーシャルメディア、銀行、旅行、地域サービス、フィットネス、料理、ゲーム、そして政府が作ったアプリまで、たくさんあります。では、コードでもなく、ビジュアルやインタラクションでもなく、これらすべてのアプリに共通するものは?

 

テキストです。すべてのアプリには、少なくともいくつかのテキストが含まれています。テキストは、インターフェースの制御や、ナビゲーション用のラベル、検索用のプロンプトなどを構成しており、アプリ自体の名前を始め、アプリがどう機能するのか、どんな有用性があるのかを教えてくれ、説明から設定入力、免責事項まで、テキストがそれがどういうアプリなのか私たちに紹介してくれます。全体として、アプリの有用性をわかりやすく伝えるという点で、テキストは非常に重要な役割を担っています。現にテキストがなければ、アプリを使いこなすことは難しいでしょう。

では、テキストが私たちのアプリ上の体験にとってこれほど基本的なものなら、インターフェースのデザインにおいて、テキストの役割に対して私たちが比較的無自覚なのはなぜでしょうか。もし、テキストがデザインにおいて最も一般的な要素の1つなら、ほとんどのチームで手を付けるのが最後になりがちだったり、ほとんど顧みられないのはなぜでしょうか。

私の仮説は、テキストがあまりにも一般的であるために、私たちはテキストの働きをすべて忘れているから、というものです。

文字を計測する

私は、アプリの画面上に200個のマス目を作り、その中に文字や数字、単語などがいくつ含まれているかをカウントすることで、アプリがテキストを表示するためにどれだけのスペースを使用しているかを判断する方法を考えました。そして、ソーシャルメディア、小売、サービス、個人金融など、さまざまなユースケースで、人気のある25のiOSアプリで、最初にロードされる画面を調べました。

このプロセスは、Apple Musicアプリの場合はこのようになります:


Apple MusicのiOSアプリの最初の画面には、テキストが約36%含まれています。そして、そう、これはNKOTBのアルバムです

ただし、アプリが使用するテキスト量だけでなく、もっと重要なことも知りたいと思いました。表示するテキストはどのくらいの量が適切か、ということです。

結果を計算する

その結果、平均的なiOSアプリでは、スタート画面の36%がテキストの表示に使われていることが判明しました。その範囲は、Snapchatのわずか3.5%からTicketmasterの57.5%までで、多くのアプリは30%から40%の間に集中しています。外れ値の上位は、Googleマップ(44%)、Paypal(47%)、Uber(50.5%)です。


25個のアプリのすべての調査と全結果はこちら


これらのアプリをすべて見てみると、テキスト表示に使用される画面スペースの量は驚くほど似ています。最高値と最低値のいくつかを捨てても、平均値はほとんど変わりません。このグラフでわかるように、調査したアプリの半数以上で、テキストに使われる画面領域が30~40%になっています:

アプリのユースケース別に見る表示テキスト

すべてのアプリが同じように作られ、同じような目的を持っているわけではありません。そのため、表示されるテキストの量は、ユースケース、つまりそのアプリを利用する人のためにどんな仕事をするかで、大きく異なります。

例えば、PayPal(47%)やRevolut(35%)などの個人向け金融アプリは、口座、最近の取引、アクティビティに関する情報を表示するために、スタート画面に多くのテキストを使用しています。同様に、Amazon(31.5%)やeBay(33%)などの小売業、Deliveroo(33.5%)やUber(50.5%)などのサービス業に焦点を当てたアプリは、オーディエンスにすぐに価値を提供するために多くのテキストを表示する必要がある場合が多いです。Google Maps (44%)、Strava (41%)、Uber (50.5%) などの地図に焦点を当てたアプリは、ラベルとして表示されるすべてのメタデータが人々の方向を決めるのに役立つため、最も多くのテキストを表示しています。

“ソーシャルメディアのアプリは、そのインターフェースのほとんどを、テキストではなく個人の動画や画像の共有のために確保している”

一方、ソーシャルメディアのアプリ、特にSnapchat(3.5%)、TikTok(16.5%)、Instagram(20%)では、そのインターフェースのほとんどを、テキストではなく個人の動画や画像の共有のために確保しています。そのメディアにテキストが含まれている場合でも、一般に、ナビゲーションやコンテキストなどは、体験においては二次的な役割を担っています。Fitbit(29.5%)やStrava(41%)などのアクティビティのトラッキングアプリは、アクティビティのデータをテキストや言語で表現するのではなく、視覚化したデータで表示するために画面を多く使用する傾向があるようです。

以下は、各アプリのユースケース別の平均です。(複数のユースケースに対応しているため、複数回表示されているものもあります):

  • ソーシャルメディア:(Facebook、Instagram、Snapchat、TikTok、Twitter、YouTube)26.4%
  • フィットネス:(Fitbit、Strava)35.3%
  • 旅行:(Airbnb、Ryanair)35.5%
  • 音楽・オーディオ:(Apple Music、Spotify、Stitcher)36.3%
  • ストリーミングメディア:(Apple Music、Netflix、Prime Video、Spotify、Stitcher、YouTube)38.8%
  • サービス:(Airbnb、Deliveroo、Uber)40.5%
  • 小売:(Amazon、eBay、Ticketmaster)40.7%
  • パーソナルファイナンス:(PayPal、Revolut) 41.0%
  • 地図・交通機関:(Strava、Google マップ、Uber) 45.2%

表示されるテキスト量はどのくらいが適切なのか?

この調査に臨むにあたって、私は、アプリの画面内で使用する適切なテキストの量はどの程度なのかについて、すべてに当てはまる答えはないだろうと推測していました。というのも、アプリが提供するサービス(そして提供する相手と方法)に応じて常に変化するだろうと考えたからです。

その推測を確認するために、私は調査したアプリでテキストに使用されているスペースの量に対してApp Annieのダウンロードランキングをプロットし、人気や普及率との相関関係を確認しました。

ここではまったく相関は見られません。同様に、アプリで表示されるテキストの量をアプリストアの評価に対してプロットしたところ、そこでも関連性が非常に弱いことがわかりました:

仮に、これらの要素に高い関連性があったとしても、皆が知るように、相関関係は因果関係ではありません。総合すると、私の最大の発見は、高い評価を得ている11個の非常に人気のあるアプリは、偶然にも、画面スペースの30〜40%をテキストの表示に使っているということです。

“私の理論では、アプリ開発者は、最初の画面で使うテキストを30%未満または40%以上にすべきではない”


このことを証明するには、もっと多くのアプリを研究する必要がありますが、アプリ開発者は、ローエンド向けのソーシャル画像/動画またはハイエンド向けのニュース/金融といった、特定のユースケースに絞ってテキストを使用する場合を除き、最初の画面で使うテキストを30%未満または40%以上にすべきではないというのが私の理論です。

画面全体に占める量が30〜40%から外れるテキストを使用するような新しいアプリを開発する企業は、その決断を慎重に検討し、リサーチやテストで検証する必要があります。そうでなければ、世界中の人気アプリの多くの一般的なユースケースに見られる明らかな傾向に逆らうことになります。

では、これらの結果を元に、アプリで表示すべきテキストについて最善の決定を下すには、どうすればよいでしょうか?

適切に書くこと

調査したアプリの中でも、Snapchatが明らかに異質なのには気づいたかと思いますが、このアプリでは最初の画面で、わずか3.5%しかテキストの表示に使っていません:


SnapchatのiOSアプリの最初の画面に含まれるテキストは約3.5%。ちなみに、うちの犬のかわいさは100%です

Snapchatのテキスト使用量が極端に少ないことは、調査した中で次に最も近いアプリのTikTokが、最初の画面の16.5%という比較的大きな割合でテキストを使用していることを見ても、間違いありません。ここで疑問が出てきます。アプリ開発者は、表示するテキストの量とその質について、どのように判断すればよいのでしょうか?

Intercomでは、既知の失敗を回避し、成功を繰り返し、プロダクトを迅速に進める際の足並みを揃えることができるよう、次のような原則に基づいて意思決定を行ないます。例えば、コンテンツデザインの原則として、「少ない方を目指す」というものがあります。これは、同じくらい優れた2つの選択肢がある場合、より少ないテキストで済む方を選ぶという意味です。

“Snapchatはカメラビューで開くため、ユーザーは即座にスナップを作成できる。他人のスナップを見ることは二の次で、自分のスナップを作ることに専念できる”


Snapchatも似たような原則に則っているのかもしれませんが、それほどテキストを表示する必要がないのは、彼らの作るものが、単にカメラ優先のアプリではなく、クリエイター優先のアプリだからです。Snapchatはカメラビューで開くため、ユーザーは即座にスナップを作成できます。他人のスナップを見ることは二の次で、自分のスナップを作ることに専念できるのです。

その一方で、一番端のTicketmasterはテキスト量が最も多く、最初の画面の57.5%を使用していました。これは、アプリが小売業に特化しているためだけでなく、Ticketmasterがイベントのチケットを販売するために、ポスターのような画像と大きなテキストを使用していることに起因します。テキストの表示に、読むことがメインのアプリであるMedium(51.5%)よりも多くのスペースを使っています!

TicketmasterのiOSアプリの最初の画面の約57.5%がテキストで構成されていて、まさに「マンマ・ミーア!」

Intercomのコンテンツデザインの原則のもう1つは、サイモン・シネックの「WHYから始めよ」に由来するものです。この原則は、人々に提供する価値(とそれを提供する動機)が、詳細な説明より前、最初に来なければならないことを思い出させてくれます。

eBayのアプリで、メッセージに使用される最初のテキストが、検索やナビゲーションではなく、ハイコントラストなデザインの大きなバナーで、安全に出品でき、毎月100件のリスティングが無料という安心感を与える内容になっているのは、この原理が働いていると言えるかもしれません。

これは、eBayの調査で明らかになった出品者が出品を躊躇する2つの懸念、1)バイヤーに対する信頼感の欠如、2)出品にかかるコスト、に対応するものだと思います。こうした要因から、このバナーは新規ユーザーにとって(言い換えればeBayにとって)アプリを開いたときに最も価値のあるメッセージになっているはずです。

eBayのiOSアプリの最初の画面に含まれるテキストは約33%ですが、彼らは最も重要な内容を最初に配置しています

Intercomの最後のコンテンツデザインの原則は、スティーブ・クリュッグの「私に考えさせるな!」という考えに触発されたものです。つまり、曖昧さをできる限り排除し、賢さではなく明確さを追求するということです。私たちは具体的かつ正確に伝えるために、平易な英語を使います。そして、誰かがすぐに見る必要のある最も重要な内容は、常に強調します。

Netflixのアプリが良い例で、ここでは、『デリー・ガールズ ~アイルランド青春物語~』というシリーズがメイン画面になっています。このシリーズのタイトルは、ナビゲーション以外でNetflixが表示する最初のメッセージで、画面全体の8%を占める巨大な全角文字で表示されています。参考までに、SnapchatのUIテキストは、画面のわずか3.5%を占めるに過ぎませんでした。この特大サイズのメッセージを使ったNetflixの狙いは、私の注意をひくことなのでしょう。それもそのはずで、現に私はこの番組が大好きで、このスクリーンキャプチャを撮った時、最新シーズンの配信が始まったばかりでした。

NetflixのiOSアプリの最初の画面の約38.5%はテキストで構成されており、私は『デリー・ガールズ』でアイルランドのスラングを学んでいます

アプリのデザインでは、やはり文字が重要

アプリの最初の画面の36%というのは(電卓をチェック)…全体の3分の1強のスペースにあたります。

モバイルアプリの非常に小さなスペースを考えればなおさら、これはかなりの量です。画面の3分の1を占めるものは、その重みに見合うだけの価値がなければなりません。私たちがアプリで目にするテキストが、価値ある内容を伝えるものでないのならば、そこにあってはならないはずです。

ただし、テキストは単なるメッセージの伝達手段ではなく、それ自体がインターフェースとしての役割も担っています。モバイルアプリからインターフェースのテキストを取り除けば、ユーザーの体験は空虚で混乱したものになってしまいます。ミグ・レイジェスは6年前、デスクトップのWebサイトでこの実験を行ないましたが、そのときに彼が学んだことは、現在のモバイルアプリにも当てはまります。「デザインとは、やはり言葉」なのです。

 


これは、Revolutのアプリを、インターフェイスのテキストありと、テキストなしで比べたものです。このようなアプリで、有意義で価値のある体験をすることができるでしょうか?

UIにテキストがないと、ほとんどのアプリは有用性が下がる…もしくは、完全に使えなくなります!唯一の例外は、最初の画面に少量のインターフェースのテキストがあるだけの、SnapchatやTikTokのようなカメラ優先のアプリだと思われます。とはいえ、「カメラ優先」は「カメラのみ」という意味ではありません。これらのアプリには、プロフィール、友達リスト、設定など、より詳細な画面もあり、そこには非常に多くのテキストが含まれています。表面上のテキストは少なくても、システム全体としてはテキストが支配しているのです。

“言語を使いやすく、使いやすく、機能的にするには、努力が必要。最後に片付ければよいものではない”


多くのアプリデザインチームは、ゲシュタルトの原則や、イコノグラフィー、カラーパレット、タイポグラフィー、「楽しさ」といったものに多くの時間を割いていますが、言葉もデザインの素材であることを念頭に置いておく必要があります。言葉は、オンボーディングやエラーなどの情報を提供する場面だけでなく、ユーザージャーニー全体を通じて、アプリ上で人々を導くインフラなのです。言語を、有益で使い勝手がよく、実用性のあるものにするには努力が必要です。最後に(あるいは完成した後にでも)片付ければよいものではありません。ですが、これはいまだによくある問題です。

意味のある体験を構築するために、製品チームはアプリの他の部分と同じように、あるいはそれ以上に、言葉に焦点を当てる必要があります。言葉は体験の妨げにはなりません。

言葉こそが体験なのです。

追記:ChimeのコンテンツデザイナーJason Foxと彼の同僚は、本記事に基づいてデザイン内のテキストボリュームを測定するFigmaプラグインを開発しました。解説記事(英語)を合わせてお読みください。

 

翻訳:Kanako Noda


執筆者プロフィール:ジョナサン・コルマン(Jonathon Colman

ジョナサン・コルマンはHubspotのシニアデザインマネージャーです。インターネット版のアカデミー賞であるウェビー賞の受賞者でもある彼は、これまでにFacebook、Intercom、IBMなどのデザインチームとコンテンツチームを構築・主導してきました。
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