週刊ニュースレターを読む
ブログ一覧に戻る
ナッジ:野心のあるUXライターのための、6つの学び

ナッジ:野心のあるUXライターのための、6つの学び

翻訳記事 Feb 04, 2023

この記事はMediumのブログ:Nudging: 6 key takeaways for aspiring UX Writersの翻訳転載です。著者のアンドレア・ミグリオリーニさんの許可を得て公開しています。

2008年、リチャード・セイラーキャス・サンスティーンが行動科学における画期的な理論を世間に紹介しました。その他大勢の複雑な理論とは異なり、その理論は短くてキャッチーな名前で登場しました:ナッジです。でも、この名称は何を意味しているのでしょう?そして、一体全体、これがUXライティングとどういう関係を持つのでしょうか?この本からUXライターとして学べることを紹介する前に、まずは基本的なところから始めましょう。

ナッジとはー3つのパラグラフ(ひょっとしたら4つ)で

いや、肘とは全然関係ないんです


がっかりさせてすみません。この文脈では、ナッジは肘とはまるで関係がありません(Nudgeは「肘でそっと突く」という意味)。オックスフォード辞典には、動詞の「ナッジ」が持つ特別なニュアンスについて、以下のように定義されています。

無理やり、または直接的にではなく、そっと誰かに何かをするように遠回しに後押しすること。


本トピックに関するベストセラー書籍の中で、セイラーとサンスティーンは、いくつかのトピックをこの定義から始めています。つまるところ、この本の主な目的は、次の質問に集約されるかもしれません。人々が選択する場面において彼らを導く責任を負っている人々、―別名:選択アーキテクトは、どのようにナッジ的アプローチを導入できるのでしょうか?

選択アーキテクトたちは、どのようにして、異なる公共または民間の部門において、人々に最適な選択肢を選択させることができるのでしょうか。人々がやりたいことを達成できるように支援するということになると、どんなUXのプロでも胸が高鳴るものです。結局、UXライターやデザイナーというものはデジタル分野の選択アーキテクトの一種ですよね?この記事では、野心あるUXライターが、ナッジというものの全体構想において、何を大切にするべきかに焦点を当てます。

以下は、この本がすべての意欲的なUXライターに提供する6つの重要な学びのリストです。

1. Econs(合理的経済人)のために書くな。人間のために書け。

統計研究においては、人々というものは計算された損失と利益に基づき、自身に最適な選択をする個人の集まりとみなされます(Econs=合理的経済人)。しかし、「ナッジ」の著者たちは、現実世界においては合理的経済人のような人々は存在しないという、行動における新たなスタンスに光を当てました。

合理的経済人よりもむしろ、私たちは人間と、そのすべての特徴と思考パターンについて語るべきなのです。それは不完全で、感情的で、偏ったものの見方をするものなのです。しかし、この啓示は経済学の場合にのみ当てはまるものではありません。

同様に、UXライターもこの観点から恩恵を受けることができます。私たちは、ユーザーと自社のプロダクトの間で、実際どのようなやり取りが行われているのかを学ばなくてはなりません。たとえば、ポップアップ上では、ユーザーはCTAの文言だけを読んでいるのか? 彼らはオンライン上で読む場合の特徴的なパターンに従って読んでいるのか?または、自分たちが最も簡単だと思っている方向にただ従って読むという傾向があるのかどうか?

要約:読者から離れたところで書くのはやめましょう。常に文脈というものを考え、実在の人々のために書くことを始めましょう。

2. バイアスを知る

結局のところ、我々を人間たらしめているものは何なのでしょうか?とはいえ、今は哲学者ぶっている時ではありません。この問題の答えとして、セイラーとサンスティーンの考えを見てみましょう。私たちの中にある、特定の状況で誤った選択をする(別名・認知バイアス)という傾向が、私たちを人間たらしめているのです。

しかし、UXライターはどのようにして認知バイアスにアプローチするのでしょうか?マーケティングコピーライターにとっては、認知バイアスはメッセージをより効果的に、そしてターゲットにとって関連性を感じられるものにするためのパワフルなツールです。最もよくある、ネット通販の広告について考えてみてください。どのコピーも、損失を回避し急いで行動するよう、読み手を駆り立てます。

しかし、UXライターは人々を説得して(何か買わせる)ために認知バイアスを利用するだけであってはなりません。私たちは、特定の状況下において、人々が可能な限り最善の選択を行えるようにする必要があるのです。

要約:UIのために書くときは、認知バイアスを慎重に利用してください。ユーザーを罠にかけるのではなく、ユーザーが彼らの目標をより簡単に早く達成することを支援するために、これらのスキームを利用してください。




こういうものを見かけたことはありますか?

3. 開示を簡単に(そしてスマートに)

ナッジに関する著作の中で、セイラーとサンスティーンは彼らの論文の中の中心的なテーマの一つである「スマートな開示」について議論しています。この表現は、ユーザーがより適切な決定を行えるようにする一連のルールを指しています。

この概念の意味するところは、2つのレベルにおよびます。ですが、ここでは最初のレベルのみにとどめておきます:複雑な情報は、ユーザーに簡単に公開されるべきです。

著作から、cookieのポリシーに関するバナーを例にとります。Cookieに関しては、ユーザーがデフォルトの選択を受け入れ、サイトの閲覧を続けるのは非常に簡単です。しかし、設定をパーソナライズし、他の選択肢を選ぶのは、ますます複雑化しています。

これは世にいるUXライターへの呼びかけでしょうか?もしそうなら、情報アーキテクトの役目を全うするべく、長くてひどいドキュメントを読みやすい情報に変える準備をしましょう。例ですか? サービスを申し込むときに承諾を求められる長ったらしい規約文書はどうでしょうか?

スマートディスクロージャーを目的とした、よりユーザーフレンドリーなアプローチは、長期的には大きな違いを生む可能性があります。あなたが請求書を理解する手助けを全くしてくれないエネルギー事業者に加入したいですか?それとも、あらゆることについて透明性を大切にしている事業者を選びますか?

要約:長い文書は消化しづらいですが、理解する必要のあるものです。ごく近い将来、法務チームと協業して、こういった文書を読みやすく(利用しやすく)することは、UXライターの責務となるでしょう。



4. 「スラッジ」を避ける

これはとても短いパラグラフになります(約束します)。

理由はシンプルです。UX/UIデザインには、「ナッジ」の著者たちが「スラッジ」と定義したものと同等のものが既にあるからです。それはダークパターン(別名・「オンラインでタスクに取り組んでいるとき、どこからともなく現れて、人をひっかけようとするポップアップ」)です。

ダークパターンはスラッジの特定のフォームです。率直に言いましょうーたとえ、ビジネスのゴールはユーザーのゴールと一致していないことが時折あるとしても、UXライターは、彼らの第一の目的は「人間のために書く」ということだと、心に留めておくべきでしょう。

要約:このことは突き詰めると、ごくシンプルな等式となります。ユーザーにとっていいもの=会社にとっていいものなのです。

5. 正しいデフォルトを設定する

私の好きなライター(デビッド・フォスター・ウォレス)の言葉を借りると、「いわゆる現実世界というものは、デフォルト設定で操作しようという気持ちを削いだりしません」。

それゆえ、デフォルトの選択肢を提供することは、全く問題ありません。これは良いアプローチですー選択のプロセスをより簡単に、速くできるものです。肝心なのは、もしそうでない場合に、あたかも最適な選択肢を提供しているかのようなふりをしないことです。

要約:えーと、これは結構短いと思います。要約しなくても大丈夫ですよ。


覚えておきましょう:言葉はいつでも影響力を持つものです

6. 影響力を考慮する

ライ麦畑でつかまえて」でホールデン・コールフィールドが指摘したように、ライティングで身を立てていない人は、言葉の力といったものを見くびっていることがあります。彼らにとっては、ごくごく些末な問題なのです。

ここで誤解しないでほしいのは、言葉の力やその他修辞的なものすべてについてを取りざたしているのではないということです。なぜなら、そうした考え方は、「言葉は大切だ」のように面白みがなくて役に立たないものに、簡単に収まってしまいがちであるからです。このことがポイントではないのです。

ポイントは、「デジタル・インターフェースにおいては、言葉は単なる言葉以上のものである」ということです。情報がデザインされ、構造化されている方法を受けて、言葉がデザインシステムの一部であるとみなすことは難しくありません。ユーザーエクスペリエンスとそのジャーニーへの影響度合いは、それより高くはないにしても、同じ程度だといえるでしょう。
「ナッジ」から例を挙げましょう。

ある時期に、セイラーとサンスティーンは大学での調査について言及しています。生徒たちは2つのグループに分けられ、それぞれ同じ質問をされました。A)あなたは自分の生活にどれくらい満足していますか? B)あなたは自分の現在の生活をどのように評価しますか?

この調査の結果が示すところは明らかでした:Aの質問をBの質問より先に聞かれたグループでは、Bの質問を先にされたグループより、自分の生活の質をより高く評価する傾向がありました。

要約:デジタルプロダクトにおいては、言葉はそれ以上の働きをする。他のデザイン的要素のようになる。そしてボタン上でほんの3単語を変えるといったようなごく小さな変更でも、大きな影響力を持つ。


・・・そして、ここに新たな責任が生じる
UXライターというものは言葉を操作する選択アーキテクトです。私たちが書く、すべてのコピーには読み手がいます。過去にいたのとはとても異なる読み手です。言葉をただ読むというより、実際に使っている人たちです。選択するために、言葉を役立てる人たちなのです。

翻訳:Chieko Kubo



執筆者プロフィール:アンドレア・ミグリオリーニ( Andrea Migliorini
 

アンドレア・ミグリオリーニは、文学と言語学のバックグラウンドを持つ、言葉に精通したバイリンガルのコンテンツ戦略家です。UX Writing Hubの認定ライターでもあります。

Medium LinkedIn