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英語のネイティブでないことが、いかに私を優れたUXライターにするのか

英語のネイティブでないことが、いかに私を優れたUXライターにするのか

翻訳記事 Aug 25, 2022

この記事はドラガナ・ミロヴァノヴィッチ氏のブログ: How not being a native English speaker makes me a better UX writerの翻訳転載です。著作元のUX Content Collectiveの許可を得て公開しています。

企業はしばしば「英語のネイティブスピーカー」を採用条件として挙げますが、これでは一流のライターの才能を見逃すことになるのではないでしょうか?英語を母国語としない人が、なぜ優れたUXライターになれるのか、ドラガナが説明します。

「アメリカの人たちがやるべきだ」彼は言いました。「僕らはコンテンツを書けるけど、彼らがレビューを行うべきだ。彼らは英語のネイティブスピーカーなんだから」

ため息が出ます。また一人、パスポートの違う人とは同じような仕事はできない、と考えている人がいる。しかも、私の職場で。

この同僚は、私がダメなライターだと思っているわけではありません。彼にとって、単純に私は英語のネイティブスピーカーのように上手くは書けないし、これからも書けないというのが常識なのです。

少しばかり経歴をお話しします。私はセルビアのベオグラード出身で、とあるグローバル企業でプロダクト・コピーライターとして働いています。7歳から英語を学び始め、2010年にケンブリッジ英語検定(CPE)を取得しました。これは文字通り、英語が母国語でない国でも、英語を教えられることを意味します。

しかし、私は英語を母国語としないために、つねにある種の厳しい目にさらされており、いまだに「劣等感」を抱いています。同僚の中には、ネイティブスピーカーでもライターでもないのに、私の言葉のチョイスに疑問を投げかける人もいます。採用担当者は「英語が母国語であること」を採用条件として挙げており、まるで世界中の人が英語で勉強したり、話したり、書いたりしていないかのように強調します。

では、あなたが英語のネイティブスピーカーでもなく、ターゲット言語の話者でもない場合、UXライターとしてどのように実力を証明すればいいのでしょうか?また、生まれ育った環境に関係なく、この業界で成功することはできるのでしょうか?その答えを見つけるために、私は何人かの戦友たちに話を聞きました。

言語はスキルなのか素質なのか?

当たり前のことを書きますが、私はライターになるのに高い言語能力が必要ないと言っているのではありません。語学力検定を廃止すべきだとも思いません。しかし、この採用条件、少なくともその言い回しには疑問を投げかけなければ、と考えています。つまり、ネイティブスピーカーであることの真の意味は何か?どんな知識を保証してくれるのか?ということです。

ネイティブスピーカーは、その言語を直感的に理解できますが、スペルや文法、そのほかの言語ルールを習得しているかは別の話です。仮に習得していたとしても、文章を書くこと、特にUXライティングにおいては、ルール以上のものがたくさんあります。

「文章を書く技術や言語能力、あるいは語学力とでも言いましょうか、これには大きな誤解があるような気がします。私は広告のコピーライターとしてキャリアをスタートしましたが、最初のクリエイティブ・ディレクターはスペルなどには疎い人でした。しかし、コンセプト的には彼女のアイデアは並外れており、私のような後輩がスペルミスを直してくれました。彼女は、消費者とブランドが出会う場面での問題解決のために雇われているのです。UXライティングも同じだと思います。ビジネスのゴールとユーザーのゴールを、言葉を通じてどこかで合致させようとするのですが、だからといって語学力が必要なわけではありません。ハンター・S・トンプソンカート・ヴォネガットが英語の達人だとは言わせません。彼らは、主張の伝え方や比喩を美しく使う方法を知っていますが、英語を勉強したとは思えません」グレタは説明しました。


グレタ・ファン・デル・メルヴェは、数年前からドバイに住んで働いている、経験豊富なUXライターです。南アフリカで生まれ育った彼女の母語はアフリカーンス語ですが、ずっと英語に囲まれて生活してきたので、自分では英語のネイティブスピーカーだと思っています。彼女は、言語能力は学び、向上できるものであり、結果としてスキルに位置付けられるものだと考えています。「コードの中で行うことはすべて言語と呼ばれ、C#やJavaなどを理解するために学びます。開発者にネイティブはいません。生まれつき開発者なのではなく、学習していくことで、コーディングが上手になるのです」

結局のところ、本当の楽しみはルールを知ってから始まります。UXコピーでは、十分なスペースがないため、あるいは要点を絞って伝えるために、柔軟性が求められることが多々あります。adidasのUXライターのカリヤ・アネバは「文法ルールを教え込まれていると、そのルールは破れないと思っているでしょうが、UXライティングでは可能なケースがあります」と述べています。

「非ネイティブスピーカーにとって、これは挑戦とも言えるでしょう。まず、優れた文法を身につけなければなりません。そうして初めて、消費者に迷惑を掛けることなく、ジャーニーの邪魔をすることもなく、文法を破れるかもしれないのですから」

つまり、プロのライティングは、ネイティブであること以上に、きちんとしたトレーニングが必要なのです。母国語も含め、ターゲット言語ヘの耳を養い、それを常に磨く必要があります。ルールを知り、ルールを打ち破ることを恐れてはいけません。

しかし、これだけ聞くと、まるで第二言語で書くことは、母国語で書くことの後追いであるかのように聞こえます。非ネイティブのライターができる特筆すべき点はあるのでしょうか?

プレーンランゲージとその他の強大な力

非ネイティブのライターが持つ長所の1つは、人間としての純粋な共感力です。私たちはどうしても非ネイティブとして思考してしまうので、ささいなことでさえも鵜呑みにしません。専門用語や複雑な言い回し、あいまいな言葉などを、平易な言葉で表現できます。とあるフレーズが自分の辞書にあるからと言って、すべての人々がそれを「ただ理解してくれる」とは思っていません。

プレーンランゲージを推進することで、長くて複雑なフレーズを排除できます。著名なContent Design Londonによるプレーンランゲージのガイドラインに従えば、英語を母国語とする人も、そうでない人も、よりアクセスしやすく、わかりやすいコンテンツにできることが証明されています。それは、単にコンテンツの内容を簡略化することではなく、明確にすることなのです。イアラは「何でもかんでもシンプルにすればいいというものではありません。他の言葉に置き換えたほうがよいタイミングを見極めることです。英語圏の読者向けに特化した表現ではなく、他の言語でも通用する表現を選ぶことです」と説明します。イアラ・ルセナは、11年前にブラジルからヨーロッパに移住してきました。彼女は長年にわたって英語とブラジル系ポルトガル語でWeb用の文章を書いてきたので、グローバルな読者のニーズには敏感なのです。

とどのつまり、オンラインコンテンツのほぼ3分の2が英語で書かれていたとしても、その割合は英語のネイティブスピーカーの割合とは同じにならないのです。

プレーンランゲージを提唱することは、ローカライゼーションや翻訳チームにもプラスになります。「もし私がこれを書いて、その文章を誰かに翻訳してもらうとしたら、翻訳者が理解しやすいように少し手を加えるか、さらに文脈を付け加えるかを考えなければならないでしょう。1つの言語しか話せない人や、そのような表現に触れたことがない人は、この点を理解するのが難しいのです」とイアラは言います。

カリーヤも、adidasで25もの市場に向けてコピーをローカライズしているため、同じような経験を積んでいます。


あなたがネイティブスピーカーなら、みんなが自分を理解してくれると思うのは自然なことです。しかし例えば、同僚のポルトガル人が、あなたと同じフレーズやイディオムを知らないために、同じようにメッセージを伝えられない、などとはあまり考えないでしょう。非ネイティブスピーカーがスラングやイディオム、口語表現を知らないわけではありません。しかし、普段あまり使わないからこそ、トランスクリエイトやローカライズがしやすいコピーに仕上げることができるのです。


このようなコラボレーションに対する意識は、私たち自身のレビュープロセスにも及んでいます。ライターによっては、自分のコピーに過剰な自信を持ち、守りに入る人もいますが、私が話したノンネイティブのライターたちは、フィードバックに対してオープンであることを誇りにしています。私は、助けを求めたり、第三者の目で見てもらったりすることに、あまり気負いはないのです。Booking.comのUXライター兼プロダクトチームリーダーであるタンジャ・マティックは、その経験を語っています。

「私はコピーライターなので、好きなように書けますし、自分で決められます。しかし、私がそれでも相手にフィードバックを求めるのは、最高のプロダクト作りに役立つとわかっているからです」と、彼女は言います。

しかし、すべてのフィードバックが等しく正しいとは限りません。

「私にとっては、ユーザーが一番で、次にコピーライター、そしてプロダクトマーケティングマネージャーの順です。また、ネイティブスピーカーに頼ることも大切ですが、思慮深さも必要です。ネイティブスピーカーが必ずしも正しいわけではありませんし、彼らがライティングを生業にしていない場合は特にあてはまります。その意味で、あなたは自分の立場を貫く必要がありますが、それはネイティブ、ノンネイティブを問わず、すべてのコピーライターに当てはまることだと思います」とタンジャは締めくくりました。

UXライティングの真髄とは

イアラが「よく言葉は紙に書けと言いますが、決して言葉だけではありません。どんな言語で書いても、何を伝えたいかを考えることがたくさんあります」と言うので、私も心から頷きました。

「コピー(UXコピーなど)を書くときは、その内容をどう伝えるかを考えなければなりません。人とどうコラボレーションするか、何をリサーチするか、自己開発の度合い。また、優先順位をつける能力も問われます。それをやるかやらないかだけでなく、今ここで伝えるべき重要なことは何なのか」イアラは言いました。

これは、UXライターに共通する悩みのひとつです。「言葉を紡ぐこと」がすべてではないと伝えねばなりません。実際、言葉選びだけに注力しすぎると、自身の存在意義を見失うことになります。肩書きの最初にあるのは「UX」ですから、スペルや文法、タイトルケースとセンテンスケースの違いなどにとどまらないことが大切なのです。ユーザーリサーチ、デザイナーとのプロトタイプ開発、プロダクトマネージャーとの目標設定など、習得しなければならないことはたくさんあります。このような誤解があるために、UXライターは、正しい専門知識としてよりも、「健全性のチェック」として、プロダクト開発プロセスの最後まで後回しにされることになるのです。

自分の価値を証明する

「コピーライターになりたいのか、なりたくないのか。あなたがネイティブスピーカーかどうかは問題ではありません」ローカリゼーションスペシャリストからUXライターへの転身について話しているときに、タンジャが上司の言葉を引き合いに出しました。彼女は、これからUXライターを目指す人たちに、言語の枠を超えて考えるよう勧めています。

もしあなたがUXライターになりたいのなら、戦略的思考、ステークホルダーの管理、コラボレーションスキル、ユーザーリサーチ、ユーザーエクスペリエンスアプローチを鍛えることが最も大切だと思います。コピーを書くのは最終段階です。そして、あなたがすでにこれらの工程に変わっているなら、書く言葉は少なくとも90%以上良くなっているはずです。不安がある人はもちろん、そうでない人も、とにかくフィードバックを求めましょう。

正直なところ「英語のネイティブスピーカー」や「〜のネイティブスピーカー」を求人条件として記載しても、見過ごされてしまうかもしれません。

これはただ単に、長い間、誰も疑問を持たなかった職務経歴書のテンプレートなのです。私は、リクルーターを批判するためにこの記事を書いたのではありません。私個人の履歴書を補うためでもありません。私が望むのは、UXのプロフェッショナルとリクルーターの両方が、仕事のための真の要件を考えるように促すことなのです。もし、あなたのプロダクトの言葉を担う人材を雇うのなら、その人たちを過小評価しないことです。信頼し合い、共に仕事をしましょう。彼らは文法警察ではなく、UXの警察なのです。私たちにはもっと彼らのような人材が必要です。
 


執筆者プロフィール:ドラガナ・ミロヴァノヴィッチ(Dragana Milovanovic

ドラガナ・ミロヴァノヴィッチは、オンライン旅行予約サイトKiwi.comのコンテンツデザイナーです。PR、マーケティング、クリエイティブ・ライティングの豊富な経験があり、そしてジャーナリズムの基礎を身につけています。

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