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私たちの仕事はただ書くだけじゃない - 非ネイティブのUXライターとして成功する方法

私たちの仕事はただ書くだけじゃない - 非ネイティブのUXライターとして成功する方法

翻訳記事 May 11, 2022

この記事はBooking.writesのブログ:What we do is much more than just writingの翻訳転載です。著者のスザンナ・アガバビアンさんの許可を得て公開しています。

あなたは選抜され、ここにいます。今日は、憧れの本社でUXライターとして働く最初の日です。口先だけの専門家たちからは、英語を母国語としないライターが国際市場でキャリアを築くことがどれほど難しいかという辛辣な指摘を受けながらも、あなたはそれを成し遂げました。

でも今、あなたは完全に怯えています。


Photo by Hello I’m Nik on Unsplash


ネイティブスピーカーで溢れかえる部屋に入ると、圧倒されるのを感じずにはいられません。いざ会議で話したり、初のコピーを書いたりする段になって、「私には十分な実力があるだろうか」と自問する無限ループに陥り、知っている英単語をすべて忘れてしまいそうになります。

これは、私にも起こりました。Booking.comで働き始めた最初の週、私は同僚のタンジャ・マティックに、インポスター症候群とどのように付き合っているのか、聞いてみました。彼女の答えは、「毎日毎日、インポスター症候群に耐えてる」でした。英語を母国語とする同僚たちが、この記事の推敲に一肌脱いでくれたときも、私は不安でいてもたってもいられませんでした。考えてみれば、これは皮肉なことです。

ここBooking.comにおいて、私たちのように英語のネイティブでないUXライターは決して少数派ではありません。また、UXライターのコミュニティーでも、およそ6分の1は、非ネイティブが占めています。この数字は、ある種の励みになります。とはいえ、実際にネイティブスピーカーに面接され、自宅でのテストとポートフォリオを採点される日常生活の真っ只中にいると、(もちろん、それだけではありませんが)自分たちが英語力の高さを理由に選ばれたことを忘れがちです。

英語ネイティブのリードUXライターであるクリス・キャメロンによると、「ネイティブと非ネイティブの違いは、他の言語を話すことで得られる視点だけ」だそうです(これは、非ネイティブのライターには有利なはず)。世界にはネイティブの英語話者よりも非ネイティブの方が多くいる(Ethnologueによると、非ネイティブの数約7億4300万人に対してネイティブは3億7800万人)という視点は重要です。

それに、その恩恵を受けるのは他の非ネイティブスピーカーだけではありません。明確で自然なシンプルな表現を用いることで、さまざまな識字レベルの読者や、失読症、一時的な認知障害、不安、ストレス、疲労など、アクセシビリティに配慮が必要な幅広い読者のユーザー体験が向上します。

では、非ネイティブのUXライターがもたらす利点として、他にどんなものがあるのでしょうか。そして、なぜチームに少なくとも1人は非ネイティブのライターを置くよう努力すべきなのでしょうか。ここでは、Booking.comの採用プロセスに関わった非ネイティブとネイティブのUXライターの意見をいくつか紹介します。

英語が母国語であるかどうかはあまり関係ないが、複数の言語を話せることはとても重要


Booking.comのUXライターは、40以上の言語に翻訳されているため、ローカライゼーションの問題を強く意識する必要があります。クリス・キャメロンは、この点において、ネイティブのライターよりも非ネイティブのライターの方が有利だと言います。「他の言語を話す英語ネイティブでないライターの方が、うまく翻訳できないフレーズや、複数形やその他の文法機能が翻訳に与える影響など、ローカライゼーションにおける重要で複雑なポイントをよりよく理解できるんです」。

ハンガリー語が母国語のUXライター、ゾルト・トースは、その多言語スキルを活かして文法上の性の一致に一貫性がない問題を発見したのですが、これは彼がいなければおそらく誰も気づかなかったことです。「私がチームに参加したとき、『あなたの{reward_type}はBooking.comから贈られます』のような文章で使われる、報酬タイプ(例えば『マイル』や『ポイント』)の変数を使ったコピーのストリングを受け継ぎました。多くの言語において、『マイル』や『ポイント』の性は異なっています。一方、『your』の形は、それに続く単語の性に依存するため、こうした文章が、文法的でない構造になっていました。つまり、ポルトガル語なら『suas milhas』という形が正しいはずなのに、『seus milhas』と表示されていたのです。私は、この問題を解決するために、『your』の部分を含む変数を作り、上のような文が、すべての言語で文法的な文章になるようにしました」。

こうした話は文法だけにとどまりません。多文化を意識することで、ネイティブではないUXライターなら、ある市場においてユーザーのニーズによりマッチするよう、改善すべき点をピンポイントで指摘できるようになります。例えば、コピーや要素を右から左に表示したり、アラブ市場では月曜日ではなく日曜日を週の初めとするカレンダーの設定に調整したりすることができます。加えて、ローカライゼーションにより柔軟なアプローチで臨めるようになります。以前は中国市場のローカリゼーションUXライターをしていたイェンクァン・チェンは、「場合によっては、翻訳者に自分の文化において、より自然な言葉を使わせる方がうまくいく」と言います。「以前私が所属していたチームでは、気に入ったものを後で見るために保存しておくウィッシュリストの機能を開発していました。ところが、ユーザーが保存したものを見つけられなかったり、この機能をまったく認識していなかったりすることに気づきました。その時、アジア圏でも言語によってこの機能の呼び方が異なることを発見し、私は翻訳者にもっと自由に翻訳してもらうことを提案しました。その結果、より多くのユーザーがこの機能を見つけられるようになり、予約してくれるようになりました」。

こうした多文化的なバックグラウンドが、実際のユーザーには役に立たないような、ステレオタイプに基づいた意思決定を避けるのに役立つこともあるのです。UXライターのギンワ・アブ・ゼインは、以前はアラブ市場のローカライゼーションUXライターでした。「アラビア語を話さない開発者がやろうとしていたことに反して、私はインド数字を使うのはやめた方がいいとアドバイスしました。アラビア語を母国語としない開発者が、アラブのユーザーならばインド数字がふさわしいと思うだろうと考えたのでしょうが、アラビア語のネイティブにとってはオンラインではアラビア数字(0–9)が普通です。これは、価格表示において一連の実験を通して、正しいことが証明されました。人々は、インド数字を見慣れていなかったため、言語を変更したり、価格比較のための代替手段を探そうとしていたのです」。

結局これは、私たちの仕事はただ書くだけじゃないという、ひとつのシンプルな真実に集約されます。Booking.comの元UXライティング マネージャーのセレーナ・ジュストによると、この仕事で成功するには、戦略的思考と優れたステークホルダー管理能力、そして異なる職種の人々との協力が必要だと言います。「私は、Booking.comでローカライゼーション チームのUXライターとしてキャリアをスタートさせました。私たちの目標は、特定の市場や文化に合わせてコンテンツを最適化することでした。そのためには、多くの定量的リサーチと定性的なリサーチが必要でした。ターゲットオーディエンス特有のニーズを満たすために、さまざまな文化的背景、心理的概念、メッセージング戦略について調査しました」。

インポスター症候群はなくならなくても、それと共存する方法は学べる


最大で82%
の人がインポスター症候群に苦しんでいると言いますが、中でも第二言語(または第三言語、第四言語)を主なツールとして生計を立てている非ネイティブのライターの間では、自分がインポスター(ペテン師)ではないかという感覚は一般的です。人によっては、それがキャリアの障害になることさえあります。しかし、これに対処する方法はただひとつ。ありのままを受け入れ、非ネイティブの自分がもたらす価値に焦点を当てることを学ぶしかありません。イェンクァン・チェンはこう言います。「確かに時間はかかります。でも、私は非ネイティブの自分をステークホルダーの1人と考えているんです。UXライターの自分が、リサーチで判明した証拠やデータ、公正な直感など、他のステークホルダーに提示するものすべてを使ってコピーを売り込まなければならないもう1人の人間なんだと。そして、あとはユーザーテストや実験に委ねています」。

もうひとつ重要なのは、先輩のライターからフィードバックをもらって成長し、自信をつけることです。UXライティング マネージャーで、以前はUXライター兼ローカライゼーション スペシャリストだったタンジャ・マティックは、「コピー サンドボックス」と呼ぶ解決策を思いつきました。「Google ドキュメントにコピーのバリエーションを複数書き、コピーの横にUX的な視点に関する自分なりの考察を追加します。そして、先輩ライターやベテラン ライターにコメントをお願いしました。こうして自分にとって安全な環境を作り、『失敗してもいいんだ』ということを学びました」。

それから、誰にでも時に「英語がダメな日」はあるものです。これは避けられません。ただ、それにどう対処し、なおかつプロとして日々の仕事をこなしていくかが重要です。「皆、私が自分が何をやっているのか理解していることは見ているし、私なら最適なコピーの解決策を提供できると信頼してくれています」とゾルト・トースは言います。

英語で文章を書き始めたいと思っている現在または未来のUXライターの皆さん、面接のプロセスが怖いと思っている皆さん、どうか怖がらないで


本当に優秀な採用担当者は、すべての非ネイティブスピーカーまたはネイティブスピーカーに対して、十把一絡げの期待や思い込みをせず、一人ひとりの応募者に同じように接するでしょう。

UXライティング&コンテンツデザイン担当ディレクターのケリー・チェンバースよると、彼女の経験上、多くの非ネイティブスピーカーは完璧な英語のライティングスキルを持ち、多くのネイティブスピーカーはそうでもないそうです。そのため、どのような候補者であっても、ライティングスキルには注意を払うそうです。しかし、文章を書くことはUXライターの仕事のほんの一部に過ぎないため、彼女が注目する主要なスキルが自己認識です。

「候補者が現在勤めている会社で、どのようにコピーをチェックしているのか、また、自分の書いたものの品質を守るためにどのような取り組みをしているかを聞いています。会社によっては、コピーエディターがいて、本番前に最終チェックをするところもあります。当社にはそれがないので、自分のワークフローにレビュープロセスを組み込むことが重要です」。

ここで一言アドバイスすると、応募要項のジョブディスクリプションに「ネイティブスピーカー」ではなく「ネイティブレベルの英語力」と書いている企業を探すことです。このような表現であれば、すでに青信号です。


個人レベルと仕事レベルでの成長の基礎となる、支援環境の重要性についての最終的な考え


5ヶ月が経ち、私は自分の新しい職務に自信を持ち、UXライターのコミュニティやチーム、さらには社外でも発言できるようになりました。最近、非ネイティブのUXライターについてのパネルディスカッションに招待されたので、私の経験を共有し、非ネイティブのライターとして自分の居場所を見つけるのに苦労している人たちを励ますことができるだろうと思っています。

このようなことが可能になったのにはいくつか理由があります。まず、私が自分自身にたくさん向き合ったから。そして、共感が私たちの会社における最大の人間的価値のひとつであり、私たちはそれを説くだけでなく、毎日、本当に厳しく実践しているから。また、一緒に働くチームが、私が発言し、自分の可能性を発揮するための安全な空間を作り出してくれたからです。私の頭の中の声は、「英語を母国語とする人はなんて幸運で特権的なんだ」から「自分のバイリンガル スキルと6ヶ国語の知識を最も効率的な方法で活用するにはどうしたらよいだろう」に変わりました。だからこそ、私がここで言いたいのは、決してあきらめず、会社、環境、同僚を選ぶときは、賢明に選ぶべきだということです。

私たちは、常に新しいライティングの才能を求めています。一緒に働きませんか?応募はこちらから。


翻訳:
Kanako Noda


執筆者プロフィール:スザンナ・アガバビアン( Susanna Agababyan 

スザンナ・アガバビアンは、Booking.comのUXライターです。「言語オタク」を自称する彼女は、母国語のロシア語とアルメニア語、そして第二言語の英語、イタリア語を駆使するライティングのエキスパートです。
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