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UXライター宮崎直人さんへのインタビュー

「役立つこと」に喜びと存在価値を感じる - PaidyのUXライター 宮崎直人さん

インタビュー May 19, 2021


宮崎さんこんにちは!本日はよろしくお願いします。
まずは自己紹介をお願いできますか?

こんにちは、UXライターの宮崎直人と申します。Paidyというあと払い決済サービスを提供するスタートアップで働いています。Paidyは150名ほどの社員がいる会社で、私はSr. Marketing/UX copywriterという肩書きです。プロダクトのUXライティングと、マーケティング施策としてのコピーライティングの両方を担当するポジションですね。まだ入って3ヶ月、というところでしょうか。

ありがとうございます。宮崎さんはUXライターとしてのキャリアをどのように踏み出したのでしょうか?


昔からずっとコピーライターになりたいと思っていて、学生時代に宣伝会議のコピーライター養成講座に参加しました。その後、新卒で営業職として日経グループの広告会社の日本経済社に入りました。コピーライターになるためには、ひとまず広告会社に入ることが大事だと思っていたんです。「いつかコピーライターになれたらいいな」と思いながら営業していましたね。

そうしたら、ちょうど1年後に組織が大きく変わるタイミングがありました。社内で常々「コピーライターになりたい」と言っていたこともあって、嬉しいことにコピーライターになれたんです。その会社では10年ほど働いたのですが「事業会社で働いてみたい」という思いも出てきて、楽天に転職しました。それが2019年の1月ですね。

楽天では、コピーライターとしてマーケティングのコピーを書いていたのですが、ある時からプロダクトのコピーを書くことになったんです。アプリとかWebサービスの、いわゆるUIテキストのライティングですね。仕事の内容が変化する中で、そこではじめて「UXライティング」という概念があることを知りました。

当時、UXライティングに関する日本語のコンテンツは少なかったと思いますが、宮崎さんご自身はどうやってスキルを身につけていったのですか?

最初にお話しした、コピーライター養成講座で学んだことが生きていて、仕事の内容と重なる部分があって「できた!」というのが最初の体験としてありました。

そこから、インターネットでもUXライティングに関する国内の記事を調べては、繰り返し読んでいましたね。


宣伝会議のコピーライター養成講座ではどのようなことを学んでいましたか?

複数の先生が講義をしてくれる講座なんですが、その中で、コピーライターの谷山雅計さんが講師を務める谷山クラスというのがあって。

その中で「コピーとは矢印である」と仰っていたことが印象的でした。いわゆる「上手いこと」や「エモいこと」を言うのは、本来の広告の目的ではない。言葉に矢印があって「人を動かすのが優れたコピーである」というお話が印象に残っていました。

矢印というのはつまり、人を動かすことが言葉の中心にあるということ。UXライティングの基礎である、お客様をナビゲートすることや、正しい方向に導いていくことと重なっているなと思いました。

もう一人。コピーライターの照井晶博さんが、広告の中で「ワーク(機能)する言葉を書きなさい」と言っていたんですね。GoogleのUXライターも言ってましたけど、明快(Clear)、簡潔(concise)、役に立つ(Useful)の3つが大事だと言っていて、僕はUXライティングの「役に立つ」ところが大好きで。

照井さんの「ワークする言葉」というところと重なっていますし、養成講座で学んできたマインドセットが今のUXライターの仕事と重なっている部分があるな、って思っています。


なるほど、当時の講座での学びが今のお仕事につながっているんですね。楽天でプロダクトのライティングをご経験されたあと、新しくPaidyに移られたきっかけは何だったのでしょう?

私自身、スタートアップで働いてみたいという思いがずっとありました。楽天は大きい会社ですから、関わる従業員の数も、サービスの規模も大きいです。なので、UXライターとして自分ができることは全体の一部でしたし、限られていました。ですが、もっと小さい組織だったら自分の目の届く範囲でできるのではないか?と思ったわけです。

そんな時にLinkedInのエージェントから連絡があって話を聞いてみました。職務内容を見てみたら、プロダクトのUIテキストも書くし、マーケティング施策のコピーライティングもやりますって書いてあって。企業には、ブランドに紐付くボイス&トーンが「UX」にも「マーケティング」にも両方にあるじゃないですか。だから、マーケティングUXコピーライターという肩書きがとても気に入っています。

また、UXライターを募集するぐらいなので、Paidyがお客様のエクスペリエンスをとても大切にしていることがすごく伝わってきたことも大きな決め手でした。


マーケティングとUXの両方を理解しているライターの存在は貴重ですよね。ちなみに今のPaidyではどのようなチーム構成ですか?宮崎さんご自身がどんな1日の流れでお仕事をされているかもお伺いしたいです。

楽天もPaidyも体制的にはほとんど変わらなくて、仕事の進め方も一緒です。その点すごく良かったなと感じています。チーム構成でいうと、プロダクトマネージャーとUXデザイナー、そして自分の3人ですね。基本的にプロジェクト単位で進めます。

たとえば、プロダクトマネージャーから、新しい機能を実装したいとか、こういう課題があって困っているからなんとかしたいという話がチームの会議で出てきます。

ここから2つのパターンに分かれるのですが、UIがメインになるプロジェクトであれば、先にUXデザイナーがFigmaを使って原型を設計します。そのときに「こういう文言が必要だから一緒に考えよう」という形で、私がFigmaにコメントを入れていくパターンがひとつ。

もうひとつが、コンテンツがメインとなるパターンですね。わかりやすいのがオンボーディング画面の設計です。オンボーディングってスクリーン全体がほぼコピーで埋まるじゃないですか。このような仕事はライターがやるべきことの方が多いので、まず私がパワーポイントやGoogleスライドを使って、コンテンツの中身を先に作るんです。コンテンツストラテジストの取り組みに近いですね。

UXライターって「デザイナーが作ったデザインに言葉を流し込むのが仕事でしょ」って思われがちなのですが、自分はそうではなく、一緒にアイデアを考えるところから参加するのがUXライティングの仕事だと思っています。

なので、私のメインの仕事道具はパワーポイントとGoogleスライドです。プロジェクトでもかなりの数のスライドを作っていますが、コピーの文言だけでなく、ボタン位置のようなビジュアルデザインについても提案します。UIの原型をパワポで作って、一緒にミーティングでディスカッションしていく、みたいなやり方が多いですね。

私自身、UXデザイナーとライターの仕事に大きな差があるとは思っていません。課題を一緒に解決する上で、私はその課題を言葉から考えるし、UXデザイナーはデザインから考えます。最初の入り口と、最終的なアウトプットの責任が違うだけです。



なのでUXデザイナーが素晴らしい文言を考え出すこともあるでしょうし、UXライターがデザインの良い改善案を持っていることもあると思います。

それと余談ですが、プロダクト作りは完全にFigmaに依存しているので、Figmaが動かないと仕事になりません。たまにサーバーが落ちた時は、みんなでぼーっとするしかないっていう(笑) チームにとってはFigmaが命綱ですね、完全に。


Figmaはコラボツールとして本当に優れていますよね。宮崎さんのチームでは用語集やスタイルガイドなどは作っていますか?

はい、今まさに作っている段階です。頻出用語を収集して、リスト化しています。影響範囲の大きいところから順番にマネージャーに説明して「これは色々な部分に影響が出るからこの言葉を使った方がいいです」みたいな風に伝えて、確認を取っています。

用語の管理はスプレッドシートで行います。あとはMailchimpのコンテンツスタイルガイドをとても参考にしていて、ああいうのを目指して作ろうとはしています。
日本語で公開されているスタイルガイドって、私が調べたところ1つもなくて。英語だったらどこでもあるんですけど。Appleも細かいガイドラインがあって初めて見たときはびっくりしましたね。それから以前見つけたんですがSlackもブランドブックを作ってるんですよ。今まで何を参考にして良いか今までわからなかったんですけど、今はMailchimpのスタイルガイドの日本語訳を参考にしながら一生懸命作っているところです。


確かに、今のところは海外のスタイルガイドを参考にせざるを得ないですよね。では、チームのためにスタイルガイドを構築されている中で、ほかにも宮崎さんがUXライターとして働く上で大切にしていることはありますか?

一番大切なことは、日本語を正しく使えて、正しく書けることだと思っています。日本のUXライティングって、エモーショナルなコピーが注目されがちなのですが、それを私は「機能的UXライティング」と「情緒的UXライティング」に分けて説明しています。機能的なUXライティングのゴールは、お客様に理解してもらい、スムーズにプロダクトを使ってもらうこと。UXライティングの中で一番大事な、まさに土台となる部分です。

土台がしっかりできてから、そこで初めてユーモアを加えるとか、感情を引き立てる部分に手をつけていく。でも、そこまで到達するには、優れたセンスと才能が必要だと思っています。


なるほど。ブランドのコピーを書くときに、いきなり調味料、クセの強いスパイスから入れようとするケースは多いですよね。

まさに。初めて料理を学ぶ人が、いきなりフランス料理のフルコースから作らないですよね。基本はやっぱり包丁の使い方だと思うんです。まずは道具の使い方を正しく身につけることが先で、そこが日本語のUXライティングでいうところの、日本語を正しく使って、正しく理解してもらうことだと思っています。基本が大事です。

コピーライターの仕事の花形って、テレビCMの最後に出るコピーとか新聞広告って思いがちですけど、私自身はパンフレットとかカタログの仕事をたくさん経験してきました。

例えばパソコンのメーカーだったら、スペックや使い方をカタログに書いていくとか。醤油メーカーの業務用も担当していたので、居酒屋さんに「こんな風に醤油を使ってください」と伝えるために、料理のメニューをパンフレットの中で一緒に提案するんですよ。

ジャンルは違いますが、これってアプリの使い方を説明する時と同じだなと思っていて、その時から正しい日本語でわかりやすく説明することに徹してきました。最初の話に戻りますが、広告のコピーライター時代に経験してきたことが今も生きていると感じますね。


紙媒体でのライティングの経験が、アプリのコピーの設計にも生きているんですね。では「考え方」という点において、宮崎さんが大切にしていることはありますか?

世の中の物事を、解像度高く見ることが大事だなと思っています。一つ思っていることですが、仕事における「専門性」というのは、漫画『デスノート』に登場する死神の目のようなものじゃないかな、と。

デスノートの死神の目って、人を見たときにその人の寿命が見えるんですね。普通の人と違う情報が浮かんで見える状態、これこそが「専門性」だと思っています。

何が言いたいかというと、UXライティングって日常のありとあらゆるところにあるわけですよ。毎日触っているアプリだけじゃなく、もう少し概念を広げてみると、道路の標識とか、案内板だって全部広い意味でUXライティングです。世の中をどう見ているか?これが大事です。

宮崎さんのnote:『あつまれ どうぶつの森』の世界観をつくるUXライティング


これに気がついたのは、Nintendo Switchのあつまれどうぶつの森をプレイしている時でした。自分の名前を決めるUI画面に「考え直す」という選択肢があって、普通だったら「戻る」とか「キャンセル」とか「OK」のどっちかだと思うんですね。

これを見つけた時に「スゴイ」と思ったのですが、それってやっぱり死神の目が働いたんだと思うんです(笑) 普通の人なら絶対に素通りするけれど「UXライティングとは何か?」みたいなことを24時間365日考えていると、気づきが増えていくんです。

もちろんデザイナーさんであれば、また違う世界の見え方をしていると思います。


それは面白い見方ですね(笑) では続いての質問です。宮崎さんがインスピレーションを受けた本やオンラインのコンテンツはありますか?

UXライティングというものを知って、一番最初に影響を受けたのが『ザ・マイクロコピー』という本です。楽天に入ったばかりの時、それこそCTRやCVRを上げるにはどうするかを常に考えていました。

この本には、こういうコピーを書いたらCTR、CVRが上がる、という具体的なパターンが書いてあるじゃないですか。こういう世界があるんだ、と本当に影響を受けましたね(笑) 楽天でもクリエイティブの人たちが集まる会議で、読んでいる人が大勢いました。


UXライター視点で、どんなアプリやWebサイトがお気に入りですか?

SUZURIですかね。海外のプロダクトであればSlackがUX界隈で有名だと思うんですが、日本の文化はまた独特だと思うんですね。
これこそが、UXライティングが日本に入ってくるのが遅れている原因じゃないかなと思っています。あまりにも文化が違いすぎますし。特にユーモアの表現とかも。その中で、このSUZURIというサービスは「自分たちのブランドはこうだ」っていうのを強く押し出しています。何気ない用語でも、他のサービスでは使っていない言葉を使っていたりして、たとえば「お気に入り」を「ズッキュン」って呼ぶんですよ!SUZURIには他のブランドにはない個性があふれ出ていて、圧倒的なUXライティングの力が発揮されています。

また「情緒的UXライティング」だけじゃなくて、機能的価値もきちんと抑えられているのがSUZURIのスゴイところです。「SUZURIの用語集を作ったよ」というブログ記事があってですね、いわゆるプロダクトの中で「普通に使われる言葉」をどう組織で運用していくのかということが書かれています。

ブランドの顔になるような、エモーショナルな言葉を作る前に、土台として使われる言葉をめちゃくちゃ丁寧に管理しているんだなと驚きました。

機能的ライティングの土台があるからこそ、エモーショナルな表現が際立つ。「アイテムとは何か?」「アカウントとは何か?」みたいなことをきちんと定義しているんです。


ありがとうございます。では最後に、UXライターを目指している方や、プロダクトのライティングスキルを身につけたいと考えている人たちに向けてメッセージをいただけますか?

インタビューの冒頭でもお話しした通り、私自身「役に立つ」という言葉が大好きです。

UXライティングで大切なことはユーザーの役に立つことですし、UXライターというキャリアそのものが「めちゃくちゃ人の役に立っている」という自分の存在価値を実感できます。これは楽天に入った時も、今のPaidyという会社でも同じです。

私が会社に入る前は、いわゆるUXデザイナーやマーケターが、UIのテキストを書いてたわけです。で、みんな「あれ?なんでこれは自分の本業じゃないのにやってるんだろう」って感じている人もいたと思うんです。

そう思わないにしても、自分の業務内容というか、定義されていた職域ではないと思っていて。そんな状況の中で、私みたいなUXライターが採用されてチームに入ると、自分で言うのも何ですが「よくぞきてくれた!」みたいな感じで歓迎されます(笑)

なので私は、この仕事を選んだのはすごくラッキーだったな、って特に最近思っています。

私が会社に入る前の状況は、いま日本中の会社で同じように起こっているはずです。「UIテキストを考える人がいないから困っている」って話をいろいろな人から聞きます。

そういう状況を踏まえると、UXライターの存在は各方面から求められると思いますし、海外ではUXライターの雇用が当たり前になっているので、日本の雇用もこれから増えてくると確信しています。

その状況が来たときに、自分のスキルを最大限発揮できるように今から準備をしておくと、誰もがきっと世の中の役に立てるのではないでしょうか。自分の力を発揮したいと思っている人は、UXライティングを勉強していくと、自分にとっても、世の中にとっても良い方向にいくと思います。

UXライターが力を発揮できる場所が、もっとたくさん増えていくと良いですよね。宮崎さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!



今週のインタビュー:宮崎直人さん  株式会社Paidy  Sr. Marketing/UX copywriter

立命館大学MOT大学院を修了後、2007年に日本経済社に入社。1年間の営業経験を経て、コピーライターに。2019年、楽天に入社。WEBサービスやアプリのUXライティングに従事。2021年2月より現職。宣伝会議「文章力養成講座」、Schoo「心を動かすUXライティング」で講師を担当。身近な題材をUXライティングの視点で分析する記事をnoteで発信中。
 
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