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『UXライティングの教科書』キネレット・イフラさんへのインタビュー

『UXライティングの教科書』キネレット・イフラさんへのインタビュー

インタビュー Dec 08, 2021
このインタビューはEscontentに掲載されたものです。書籍「Microcopy: The Complete Guide(邦題『UXライティングの教科書 - ユーザーの心をひきつけるマイクロコピーの書き方』)」の著者が、UXライティングの始まり、プロジェクト、そしてコンテンツデザインの未来について語っています。

画像引用元:Malko Gallegos

Q.あなたのことを教えてください。 UXライティングやマイクロコピーの世界に足を踏み入れたきっかけは何ですか?

今にして思うと、運命のようなものですね。私は文章を書くことも、人と接することも、テクニカルなことも好きなので、この仕事は天職でした。でも、この仕事に就いたのは、本当に偶然です。

2004年に旅行雑誌の編集者としてキャリアをスタートさせて、数年後にはフリーランスのライターになりました。 ある日、イスラエル大手の銀行から予算管理アプリのリライトを依頼されて、メールをより親しみやすくするために協力しました。 もちろん、当時はUXライティングというものはありませんでしたよ。アプリ向けのライティングの方法は何も知りませんでした。でも、依頼してきた担当者がどうしてもと言うので、私は必死になってそのアプリを完成させたんです。それ以来、私はこの分野を専門としています。

現在、私はイスラエルのUXライティングコミュニティをリードしていますが、一番に情熱を注いでいるのは、公共サービスや政府機関であり、マイクロコピーが国家レベルで生活をより良くできる分野です。2020年に、イスラエル政府のブランドボイスをデザインして以来、今は政府のデジタルプロダクトのマイクロコピーを書いています。

あなたの本は、UXライターやUXライター志望の素晴らしいガイドブックとなっています。でもなぜUXライティングではなく、マイクロコピーに焦点を当てたのでしょうか?

期待に沿う回答ではないかもしれませんが、私が本を書いて出版したのは、UXライティングという言葉が生まれる少し前のことです。マイクロコピーは2009年の造語で、UXライティングは本の初版が話題になった2016年頃に一般的な言葉になりました。

現在、UXライティングのコミュニティでは、マイクロコピーとUXライティング(およびコンテンツデザイン)の違いは、区別されています(そして活発に議論されています)。後者は専門職であり、前者はデジタルプロダクトにおける実際の言葉を(UIコピーと呼ばれることもあります)指すものです。この本はその両方をミックスしたものでした。豊富なマイクロコピーの事例と、(リサーチやテストのような)UXライティングのコンセプトやテクニックがまとまっています。この本をドイツ語、フランス語、日本語に翻訳した出版社は、タイトルに「UXライティング」という言葉を、マイクロコピーのすぐ隣に付け加えました。

正直に言うと、私は自分たちの職業の肩書や、デジタルプロダクトの中の言葉の「正しい呼び方」をめぐる長年の議論について、少し公平な立場にいます。ユーザーが何を必要としているのか、何を求めているのか、どうすればユーザーの役に立てるのか、ということに注意を払って研究を続けている限り、どのような定義でも構わないと思っています。ですが私は、この業界とコミュニティが進化し続けて、独自のアイデンティティを形作っていることに興奮しています。よりはっきりした定義を求めることは、その一環でもあります。

とにかく、マイクロコピーでもUXライティングでもコンテンツデザインでもいいのですが、この本は「マイクロコピー」という見出しでベストセラーになったので、今の時点で切り替えるのはちょっと難しいですね。私はマイクロコピーという小さな言葉をとても誇りに思っていますし、この本では何よりもまずマイクロコピーに焦点を当てています。マイクロコピーはコンテンツデザイナーとしての仕事の最終的な成果物です。

UXライターが最高のマイクロコピーを書くには?

優れたマイクロコピーを形作る5つの要素は、「関わり合い」「ユーザーリサーチ」「ブランド/プロダクトリサーチ」「ユーザーフローの理解」「ユーザビリティテスト」です。全体的なアプローチとしては、ひとつひとつのステップや決定事項の背後にある理由を理解することが重要です。

ですから、私の最初のアドバイスは、プロセスの早い段階でチームに参加することです。プロダクトチームやデザインチームが行った選択の裏にある根拠を理解し、そこに自分の意見や洞察を加えれば、マイクロコピーがユーザーやプロダクト/ブランド/企業にフィットしているかどうかを確認する上で、より良いポジションに立てます。

そしてもちろん、ユーザーリサーチを行います。ユーザーが何を求めているのか、何を必要としているのか、そしてトピックについてどのように話しているのかを、実際に聞いたり読んだりできる場所がたくさんあります。これは、本の中でも紹介しています(パート1はリサーチに特化した内容です)。ユーザーが何を求めているのか、何に悩んでいるのか、何を恐れているのか、何を夢見ているのか、すべてを表現するためにどんな言葉を使っているのかを知る。これが基本です。

もうひとつの重要な要素は、ブランドとプロダクトのリサーチです。会社のビジョン、価値観、差別化、ビジネスゴール、KPIなどを学びます。多くの場合、マーケティングチームがすでにリサーチを行っているので、可能な限りマーケティングチームと協力してください。また、マーケティングチームと協力することで、すべての部署の言葉や文章が似通ったものになり、ユーザーがプラットフォームを横断して、同じメッセージやユーザージャーニーを体験できるようになります。

プロダクトのモックアップ/ワイヤーフレームが完成したら、プロダクトデザインチームと一緒に、フローがどのように見えるのか、そしてその理由をよく理解しましょう。ユースケースを話し合い、あらゆるバージョンの画面をチェックし、プロダクトの動作とユーザーが抱く期待を理解します。

最後に、ライティングを終えた後、実際のユーザーによるユーザビリティテストを行います。これは非常に効果的で、私のマイクロコピーはいつもテストによって改善されてきました。ユーザーが実際にプロダクトを使い、何を理解し、何が機能し、何が機能しないのかを見て理解することほど素晴らしいことはありません。

世界的な成功を収めているあなたの本についてですが、次の本を出版する予定はありますか?UXライティングやコンテンツデザインに関連したものとか?

ありがとうございます。この本が軌道に乗っていくのは、本当に圧倒されるような素晴らしい経験でした。今では、ヘブライ語、英語、フランス語、ドイツ語、韓国語、日本語、そしてもうすぐイタリア語でも出版されます。とてもエキサイティングです。新しい本については、ここだけの話ですが、書こうと思っていますよ。新しい本の中では、私たちの業界やコミュニティで最近注目されているものの、まだ適切に扱われていないトピックを扱います。今のところ詳細は明かせませんが、とてもエキサイティングなプロジェクトです。2022年には、私のスケジュールの都合上、少しでも前進できることを願っています。

イスラエルには有名なUXライターが何人かいるようですね。UXライターのコミュニティは大きいのでしょうか?

そうです!17,000人のメンバーを擁する、活気に満ちた、温かみのある、プロフェッショナルなコミュニティです。私たちは2015年6月に、世界で最初のUXライティングコミュニティの1つとしてスタートしました。ですので、このコミュニティが世界的に重要なポジションにいることはうなづけます。イスラエルはテクノロジーに溢れているので、UXライティングの分野の専門化を求める声がイスラエル市場にはありました。

私たちのコミュニティでは、UX/UIデザイナー、プロダクトマネージャー、UXリサーチャー、マーケティングチーム、そしてもちろんあらゆる種類のライターなど、ライターだけではなく、あらゆるデジタルエキスパートを常に歓迎しています。多様な視点でデジタルプロダクトに携わる人たちが集まったことで、私たちのコミュニティは成功しました。

私たちは皆、お互いから学び、ゆっくりと、しかし確実に、UXライターはイスラエルでデジタルインターフェースに携わるすべての人の目に留まる存在となっていきました。これが、この職業がイスラエルで流行した理由のひとつです。私たちのコミュニティはこの分野を専門化し、テクノロジーのエコシステム全体にマイクロコピーの価値を示しました。

世界のUXライターやコンテンツデザイナーの将来をどう見ていますか?この役割はどのように進化していくのでしょうか?

私は、最近のテクノロジーの世界で起こっていることに関連して、3つの未来の展開を考えています。AI(GPT-3とGPT-4)、音声とチャットボット(会話デザイン)、そして、本当に人の手が必要なマイクロコピーの存続です。

AIの助けを借りて文章を書くことは、非常に興味深い可能性を秘めています。特に、最新のGPT-3(ディープラーニングを利用して文章を作成する言語モデル)の開発には注目が集まっています。AIがマイクロコピーを上手に書けるようになるには時間がかかると思いますが、いずれそうなると思います。そうなれば、UXライターの中には、GPT/AIモデルを管理し、AIのマイクロコピーを編集・推敲する人が必要になるかもしれません。

会話のデザインについては、自律走行車やスマートスピーカーのように、音声を使ってチャットボットの機能を自動化するインターフェースが増えていくでしょう。VUI(ボイスユーザーインターフェース)ライターも、今後ますます重要な役割を担うことになると思います。また、VUIライターは、すでにテクノロジーの最先端分野の中核を担っているので、今後ますます重要な役割を担うことになるでしょう。

そして最後に、AIには敬意を表しますが、人間の感情を模倣するにはまだまだといった状況です。UXライティングは、プロダクトにもよりますが、あるレベルで必ず人間的な要素が必要です。今のAIは、さまざまなユーザーがどのように世界を見ているか、感情的、文化的、社会的な側面を完全に理解するにはまだほど遠いのです。

UXライターの役割が意味するものは2つあります。1つは、高度な技術に早く慣れなければならないこと。しかし、それに加えて、AIソリューションだけでは対応できない仕事も必ず出てきますから、私たちの最も貴重な資産である人間性を常に高めていく必要があります。人間の共感性と創造性は、どの職業にも必ず存在します。

最後に、実際に誰もが利用できる「The UX Writing Library」について少し教えてください。

UXライティングライブラリには、世界中のローカルなUXライティングコミュニティへのリンク、書籍、ニュースレター、ポッドキャスト、コース、イベント、「最初の一歩」、インスピレーション、ツールなど、たくさんのリソースが含まれています。それから、英語以外の言語で書かれたリソースもあり、成長とアップデートを続けるライブドキュメントでもあります。

このサイトは、いろいろな人が私にアドバイスを求めてきたことから始まりました。UXライターを目指す人たちは、最初の仕事を得て、できる限りのことを学びたいと思っていましたし、シニアライターは自分のスキルを向上させたいと思っていました。その中間にいる人たちは、地域のコミュニティに参加して、最新かつ最高のトレンドを把握したいと思っていました。あるとき、私は同じ質問に答え続けていることに気づいたので、オンラインで目にする素晴らしいリソースをすべて集めて、大きなUXライティングライブラリを作ることにしたのです。

最終的な私の目標は、世界中の意欲的なUXライターがこの活気に満ちた職業に就くのを助けること、そしてすべてのライターが人々に愛されるデジタルプロダクトを作るのを助けることです。これは、UXライターの職業の発展を助けるための私なりの方法です。UXライティングの仕事に初めて就いたのは、このライブラリーのおかげだと言う人もいますが、信じられないほどです。

 

一問一答

Q.UXライティングの本を教えてください。あなたの素晴らしい本の他にも何かおすすめはありますか?
私はTorrey Podmajerskyの本『Strategic Writing for UX』が大好きです。とても実用的で簡潔で、大きな視点と適度なディテールを備えています。マイクロコピーの本質を体現していて、この本を読むと、話がよくわかります。

Q.おすすめのUXライティングコースは?
UX Content Collectiveのキャリアコースです。UXライターがUXライティングの世界に入り、雇い主にとって魅力的な存在になる方法を教えてくれる素晴らしい教材です。

もちろん私の偏見ですが、UX Content Collectiveが提供している私自身のライティングコース「The Microcopy Course」も本当にお勧めです。UXライティングの基本から洗練されたテクニック、そして何よりもマイクロコピーメッセージの実例をステップバイステップで学べます。

Q.UXライティングのお手本は?
個人的には、UXライティングの面で優れている2つのデジタルプロダクトがとても気に入っています。LemonadeWix(リンク先は日本語版)です。この2社は、非常に複雑で官僚的で保守的な分野(保険やウェブサイト制作)を、誰もが楽しめるように親しみやすくシンプルなものにしています。両社の素晴らしいところは、このシンプルな文章が彼らのビジネスモデルの中核にもなっていることです。彼らのマイクロコピーが、「複雑なものをシンプルにして、ユーザーの体験をスムーズに、快適に、明確にする」という彼らのブランドバリューを完璧に体現しているのがわかります。彼らは、まさに自分たちが説くことを実践しているのです。

 

最後に - KOTOBA UX

2021年2月にキネレットさんの著書『The Microcopy Complete Guide』の日本語版『UXライティングの教科書』が、翔泳社さまより発売されました。この企画をご快諾くださった編集の関根様には心よりお礼申し上げます。

2021年12月12日(日)までの間、翔泳社さまではITエンジニア本大賞2022を開催しています。『UXライティングの教科書』を読んでくださり、役に立った、面白かったというあなた。現在、ウェブ投票を受付中ですので、ぜひ本書をご推薦いただけると嬉しい限りです。

翔泳社 - ITエンジニア本大賞2022
※『UXライティングの教科書』の投票用ISBNコードはこちら「4798167339」

 


執筆者プロフィール:キネレット・イフラ(Kinnert Yifrah

イスラエルのトップクラスのマイクロコピー専門スタジオ、ネマラの代表。デジタルプロダクトのコンテンツとマイクロコピーのライティングで10年の実績を誇り、あらゆる業界、あらゆる規模の企業のためにボイス&トーンのデザインを続けている。
著書:UXライティングの教科書(翔泳社)  |  オンラインコース リンクトイン