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すべてのひとをつつみ込む、使いやすいデジタルプロダクトの書き方

すべてのひとをつつみ込む、使いやすいデジタルプロダクトの書き方

翻訳記事 Jun 02, 2021

この記事はUX Collectiveの記事: How to write inclusive, accessible digital productsの翻訳転載です。著者ニック・ディラーロさんの許可を得て公開しています。

すべての人に贈る、ライティングのアドバイスがあります。

自分の書いた文章を声に出して読んでください。

そう、声に出して。頭の中で読み上げるのではありません。声に出して、口を動かしてください。音を出してください。自分の文章に耳を傾けるのです。シンプルなテクニックですが、効果があります。

耳で聞くことで、自分の作業から一旦離れることができます。見落としていたものを見つけ、修正できます。これこそが、物事をなめらかにする方法です。言葉は、口にすると違った印象を与えるものです。

優れたUXライティングの第一の目標は、ユーザビリティです。デジタルプロダクトに個性を与える前に、まずはプロダクトそのものが意味を成す必要があります。つまり、誰にとっても使いやすい言葉でなければなりません。

デジタルプロダクトを担当するUXライターにとって、インターフェイスのコピーを耳で聞くことは、二つの意味で役に立ちます。なぜなら、このやり方はスクリーンリーダーがやっていることを、そのまま真似しているのと同じだからです。耳で聞くことは、あなたのUXライティングをより良いものにし、プロダクトをさらに使いやすいものへと変えます。

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プロダクトデザインの世界の「物事の捉え方」は、この言葉がよく表しています。それは「ユーザー」です。ユーザー・エクスペリエンス。ユーザーテスト。ユーザーリサーチ。「ユーザー」は理解しやすい言葉ですが、ときに重要な事実を隠してしまいます。

それは、ユーザーが生身の人間であること。そして、文章の読み方は人それぞれ異なるということです。

英語を第二言語として理解する人もいれば、フォントサイズをかなり大きくして読んでいる人もいます。認知機能に障害があったり、語彙力に限りがあったり、私たちが使う一般的な言葉に対して、異なる解釈をする人もいます。

インクルーシブで、アクセシブルなUXライティングは、このプロダクトが、すべての人にとって「自分の居場所」であることを思い出してもらう方法なのです。

ですから、まずは声に出して読んでみましょう。他にもこんなことができます。

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明快に書くこと

優れたUXライティングの根底にあるのは、クリエイティビティではなく明快さです。シンプルな言葉を選び、短い文章を作りましょう。ユーザーが知らない略語には説明を添えてください。句読点を適切に使ってください。ユーザビリティに影響を与える可能性のある巧みな表現、言葉遊び、慣用句には特に注意してください。何よりも、理解してもらえるように書くことです。

楽しいヘッドラインやタグラインは広告ではうまくいくかもしれません。しかしデジタルプロダクトでは、混乱を招き、翻訳が難しくなることがあります。


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インクルーシブな(包容力のある)言葉を使う

どこかの誰かにではなく、実在する相手に向けて書きましょう。相手を呼びかける際の代名詞(Pronouns)を尊重しましょう。能力主義、人種差別、性差別、ステレオタイプを避けましょう。そして、言葉はつねに進化することを忘れないでください。インクルーシブなUXライティングはその進化を形作るのに役立ちます。今日、インターフェースに書かれた思いやりのある文章は、明日を生きる人々の考え方や行動に影響を与えることができるのです。進歩を促す立場で書きましょう。あなたが住みたい世界を書くことです。

一つひとつの言葉が重要です。すべてのユーザーに当てはまる言葉を使ってください。

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すべてのユースケースを尊重する

ユーザーが、同じプロダクト内の同じフローを歩んだとしても、そこから生まれるニーズや感情は大きく異なります。例えば、サンディエゴでレンタカーを予約する2人のユーザーを考えてみましょう。一人はこれから西海岸をドライブ旅行するのだとワクワクしているかもしれません。もう一人は、手術したばかりの友人の世話をするために家に帰ることになり、青ざめているかもしれません。優れたUXライティングは、決して「憶測」でものを書いたりしません。


妊娠はお祝いするものです。しかし、妊娠を避けるために排卵期予測アプリを使用している人は例外です。すべての人に向けて書くということは、ほとんどの場合、抑えたトーンで書くことを意味します。

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中立的なプレースホルダーテキストを使う

プレースホルダーテキストは、インターフェースを説明するのに役立ちます。しかし場合によっては、ユーザーが「批判されている」かのように感じたり、自分と誰かを比較しているような気持ちになってしまうことがあります。プレースホルダーテキストのUXライティングは、ユーザーが正しくフォーム入力できるよう促しますが、デフォルトで性別、人種、健康、財産などの情報を入れるのは避けてください。


左側:ユーザーは心配し始めます。「本来はこれくらい節約できていなきゃダメなんだろうか?」「私って節約しすぎ?」右側:ユーザーは単に金額を入力するだけ。

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退屈なCTAを書く

薄っぺらい言い回しでは効果がありません。明快なCTA(コール・トゥ・アクション)を使って、ユーザーにちょうどよい期待感を抱いてもらえるようにしましょう。そして、いつも正直でいてください。無料トライアルなのにクレジットカード情報を要求するのは(驚きの行為ですが!)倫理に反しており、素人っぽく、迷惑なものです。


ユーザーに行動を呼びかける場面。今はブランドの個性をアピールすべきタイミングではありません。

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すべての文章を通常の書式でテストする

ほとんどのスクリーンリーダーは、太字斜体、色付きのテキストを認識しません。このようなものを使わずに、はっきりとした表現や句読点でアイデアや情報を強調するほうが、簡単に文章を書けます。色付きのテキストやさまざまなフォントスタイルを使って文章を書く場合は、それらの装飾をすべて取り除いた状態でも、文章が機能することを確認してください。UXライティングは、色やサイズ、フォントスタイルがなくなっても意味を成していなければなりません。


装飾などの書式を取り除いても、テキストの意味が変わることはありません。

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すべてのインターフェースで意味が通じる言葉を使う

さまざまなデバイス、ブラウザ、アクセシビリティツールを使う人たちのために書いてください。特定のユーザーにしか通じない言葉はすべて取り除きます。つまり「クリック」や 「タップ 」のように、そのデバイス特有の動詞は使いません。また「右側に」のような方向性を示す言葉も削除します。優れたUXライティングは、UIを説明しようとするべきではありません。また、方向性を示す言葉は、スクリーンリーダーを使用している人にとってあまり意味がありません。


「クリック」は、マウスを使用している人にのみに当てはまります。「下記」はデザインを弱くし、特定のユーザーを無視します。

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代替テキストや字幕を付ける

UXライティングの文章の中には「縁の下の力持ち」がいます。プロダクトのインターフェース上には表れませんが、助けを必要とするユーザーのために役に立ちます。たとえば、すべての画像には代替テキストが必要です。すべての動画には字幕が必要です。プロダクトチームやエンジニアチームと協力して、これらの機能を追加していきましょう。


代替テキストは、スクリーンリーダーを使用しているユーザーが画像の内容を理解する助けになります。動画のキャプションは、難聴の人に役立ちます。

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明快に書くこと

大事なことなので2度記しておきます。平凡なコピーでも、プロダクトは美しくなります。良い文章は、プロダクトを使いやすくします。



執筆者プロフィール:ニック・ディラーロ(Nick DiLallo

ニック・ディラーロは、デジタル住宅ローン融資のスタートアップ Better のUXライター、ブランドボイスのグループディレクター。過去にはブルックリンのWork&Coのグループディレクターを務め、個人のクライアントにはApple、IKEA、Airbnb、Etsyなど多数。

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