
UXライティングにおいて、気の利いた言い回しを慎むべきとき
Jul 20, 2022この記事はPrototyprのブログ:When you should ease up on the wisecracking in your UX writing の翻訳転載です。著者のキネレット・イフラさんの許可を得て公開しています。

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ダジャレ、皮肉、一発芸、文化的レファレンス、感情や人間性の表現、かわいらしい修辞疑問文。これらはすべて(あるいはその他も)、ユーザー体験を向上させ、ブランドのビジネス目標達成させるのに効果的なツールです。
- しかし、一般的な言葉がすべて斬新な言葉に置き換えられているせいで、ユーザーが必要な情報を見つけられないなら。
- ユーザーが急いでいるときに、言葉づかいが不明瞭であったり、二重の意味があったりするために、説明書を二度読みしなければならないなら。
- あまりに難解な用語のため、取り残されたように感じさせたなら。
- ユーザーがすでに憤慨していて、ジョークがそれをさらに悪化させたなら。
- 私たちの感情表現が、その瞬間のユーザーの体験とはかけ離れていたなら。
このような場合、ユーザーの体験をより良いものにするどころか台無しにしてしまい、ユーザーを惹きつけるどころか遠ざけてしまう可能性があります。
マイクロコピーの目的は、ユーザーを支援することです。ユーザーに負担をかけるようでは、本末転倒です。
では、どのような場合にマイクロコピーに気を配り、そして一歩引いた気の利いた表現をすべきなのでしょうか。
1. 複数のターゲットオーディエンス
数ヶ月前、私はコンテンツストラテジストの集まるFacebookのミートアップに参加しました。終了間際に、参加者の一人がパネリストにインスタグラムの専門用語について質問しました。
ティーンエイジャーは、非常に独特な方法でインスタグラムを使っており、すばやく、きわめてインタラクティブです。
中小企業の経営者もインスタグラムを熱心に利用していますが、そのペースや 目的、やり方は全く違います。
では、どうすればすべての人にフィットする、共通言語を作り出せるでしょうか?
Facebookの初期のコンテンツストラテジストの一人は、同社の言語がまさにこのギャップを埋めるものだと答えています。インスタグラムは、どの重要なオーディエンスに対しても見放さず、一方を相手にするのでもなく、むしろ全員にフィットする方法で話をするのです。このような言葉は、特定のオーディエンスをターゲットにした気の利いた表現ではなく、シンプルで比較的一般的なものでなければなりません。とはいえ、決して個性がないわけではなく、自然で、親しみやすく、実用的なもので、ユーザーに直接語りかけ、日常的で親しみやすい方法で書かれたものでなければなりません。
一般的に、特にボイス&トーンでより精度の高いマーケティング活動を行うためには、ターゲットオーディエンスはできるだけ絞り込んだ方がよいでしょう。
しかし、インスタグラムやWazeのような便利なサービス、金融系のサービス、健康志向のサービスなど、複数のオーディエンスをターゲットにしている場合は、次のように考えます。
もし、誰もが使えるサービスなのであれば、最大公約数を目指し、よりシンプルに、より洗練された表現を選びます。そして、誰もが自分の居場所だと感じられるようにしましょう。
親しみやすく、クセのない自然な文章を書くには?この記事の下にあるガイドラインをチェックしてみてください。
2.プロダクトを使う人々の心理状態を予測することが難しいとき
あなたのプロダクトが複数の機能や可能性を秘めている場合、例えば、ユーザーが予約を取ったり、検査結果を見たり、一般的な情報を得たりできる医療サービスのWebサイトの場合、ユーザーはさまざまな理由でサイトを訪れるので、それぞれの時点、それぞれの選択肢において、具体的にどのようなニーズがあるかを予測するのは難しいでしょう。
- 喉の痛みなのか、それともつらい結果を待っているのか。定期的な健康診断なのか、それともストレスの溜まる予定なのか。
- ソファでくつろぎながら好奇心で見ているのか、それとも次の会議の前に早く終わらせたいのか?
- もし患者が予約を取っているのなら、次に予約が取れるのが3カ月先だと知ったら憤慨しないだろうか、ウィットな言葉遊びは相手を怒らせるだけではないのだろうか。
- ユーザーがWebサイト上で処方せんを閲覧する理由はさまざまで、その理由の1つだけに通用するジョークを選ぶとしたら(ただ単に、他のものを予測できなかったから)、ユーザーによっては、あなたが何を言いたいのかが理解できないのではないでしょうか?
一般的なオンラインショップであっても、お問い合わせページでは、完璧な商品を見つけて支払い方法を詳しく知りたがっているハッピーなクライアントへの対応や、破損した商品を受け取ったという怒りのクライアントへの対応があり得ます。
ですから、すべてのページとメッセージについて、あらゆシナリオを考えなければなりません。そして、あまりにも多くのシナリオが想定されるのなら、安全策を講じる方がよいでしょう。
まとめると、ユーザーがプロダクトを使うときにどう感じるか、どう反応するかという理由がたくさんある場合、自然で、シンプルで、ていねいな表現にこだわることです。ユーモアが重要な役割を果たす場合には、誤解を招かないよう、おだやかで嫌味のない表現を心がけましょう。
3. 60歳以上のユーザーがいる場合。たとえ超テクノロジー志向であっても
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最近まで、大人向けのUXについて考えるとき、私は85歳の高齢者が新しいことを学ぶ忍耐力を失った後に、やむなくインターネットを使う姿を想像していました。彼らの最大の課題は、どこをクリックし、どこをスクロールし、どうすれば安全に次のステージに進めるのかがわからないことだと、私は都合よく考えていました。そして、そんなごく一部の人たちのために、UIに詳しい説明文を載せようとは思っていませんでした。
しかし、現実はもっと面白くて、複雑です。
最近、ハイファ大学で高齢者向けのUXについて博士論文を書いているヤスミン・フェルベルバウム・コレンによる素晴らしい講演を聴きました。
ここでは、私が考えもしなかったことをいくつか紹介します(お恥ずかしい限りです)。
- たとえあなたが生まれながらにしてタッチスクリーンを手にし、幼い頃からGoogleアシスタントと会話していたとしても、60歳になれば(統計的には)視力と聴力が徐々に衰え始めます。これまで仲良しだった画面も読みづらくなり、最先端の音声インターフェースもクリアに聞こえなくなり、繰り返し聞き返すことになるでしょう。これは、テクノロジーの慣れとは関係なく、人間の体の問題なのです。
- 運動機能は以前とは比べものにならないほど低下しています。どこをクリックすればいいかわかっていても、手が震えていると、そう簡単にはいきません。
- 年齢を重ねると、片方の手で補助具を持ち、もう片方の手でデジタルプロダクトを使わなければならないこともあります。
- シニア向けのプロダクトがあっても、それを使うのは「弱い」「頼りない」「必要ない」と感じるかもしれません。みんなと同じデジタルプロダクトを使い、自分のニーズを満たしたいと思うかもしれません。
- 私が最も興味深いと思ったのは、高齢になったシニアは、親しい友人がいなくなったり、モチベーションが下がったり、来客がなくなるのではないかという不安から、孤独で疲れて憂鬱な日常を過ごすことがある、というものです。つまり、サポートを任されたロボットの声があまりに人間的だと、身内や恋人の代わりをしてくれる存在だと思わせてしまう可能性があるということです。
これがマイクロコピーとどう関係があるのでしょうか?
高齢者があなたのプロダクトを使う場合、たとえ彼らがテクノロジーに精通していたとしても、明快で簡潔な言葉で書かれた指示やダイアログ、メッセージの方が、ずっと快適に感じるでしょうし、一字一句読まなくても理解でき、メガネをかけなくても理解することができるのです。
だからといって、無味乾燥なボイスを使う必要はありませんが、ダイアログボックス、エラーメッセージ、エンプティステート、パスワード回復などのサイドアクションなど、実用的な場面やより複雑な場面では、声のトーンを落とす必要があります。
ジョークを使うのは、ローディング時間(ユーザーが何もすることがないとき)、成功メッセージ(アクションが完了したことを確認した後)、あいさつなどです。混乱させたり、プレッシャーのかかる状況や、移動中に実行しないようにしましょう。
また、時流にそぐわない文化的な言及は避けた方がいいと思います。35歳以上の人には理解できないだけでなく、その言葉は生まれるとすぐに廃れてしまい、せっかくのマイクロコピーも無意味なものになってしまうからです。
そして、あなたがユーザーの世界観にあまり精通していない場合、例によって、ユーザビリティ・テストを実施することは、本当に、本当に、本当に価値があります。 たとえその相手が、週末の夕食後のおじいちゃん、おばあちゃんであってもです。
4. 障がいを抱えるユーザーがいる場合
インターフェイスを見ず、コンテクストを完全に把握せずに、スクリーン・リーダーの助けを借りてマイクロコピーを聞いたユーザーは、あなたが何を言いたかったのか、次に何をしなければならないのかを理解できるでしょうか?
注意欠陥障がいや失読症を持つユーザーは、ただでさえ文章を読み解くのに苦労しているのに、言葉の巧みな言い回しを理解できるでしょうか、それとも我慢できなくなるでしょうか。
先ほども述べたように、マイクロコピーはユーザーの行動を支援するためのものです。ブランドエンゲージメント、笑顔のきっかけ、感動体験の創出といった重要なタスクは、その次に来るものです。洒落やユーモアは、マイクロコピーが明快であることがはっきり分かっている場合にのみ有効なのです。どんな人にも。
5. グローバルな読者に向けて英語で文章を書く場合
英語を母国語としないユーザー(ESL - English as a Second Language)向けに文章を書くいているなら、サギット・シガル氏の講演を聞いてみてください。サギット氏は、ESLがたとえ仕事で使う英語力が優れていても、クリエイティブな言葉の構造(例えばtrain againではなくretrain)を理解できなかったり、専門用語やスラングに馴染めなかったり、重要な言及を見落としたりすることについて、素晴らしい例を挙げて説明しています。
このようなギャップがあると、求められる行動を起こすことが難しくなり、その機能の本質を理解することすら難しくなります。
講演はこちらのリンクから視聴できます。
サギット氏は、グローバルな読者に向けて文章を書くための7つのルール(36分10秒)をまとめています。その中から私たちに関係するものをいくつか紹介します。
・文化的・言語的な背景や、認知的過負荷を考慮する - スラング、冗談、頭字語、複合語、略語を避ける。
・専門用語は忠実に使用する - 文学的、文化的な言葉に置き換えないようにする。
・学校で習うような言葉を使う。
さらに付け加えると、文章を書くときは、あなたの素晴らしいコピーを評価してくれるシリコンバレーの住人のことを考えるのではなく、フランス人、スカンジナビア人、日本人、スペイン人のユーザーのことを考え、そのユーザーが明確でシンプルな使いやすいインターフェースを評価してくれるようにすることです。
6. マイクロコピーをローカライズする場合。
私はローカライズを2つのカテゴリーに分けたいと考えています。
1:文化的ローカライズ
言葉ではなく、意味を翻訳する場合。イスラエルのGoogleの翻訳チームリーダーであるヤエル・セラは、私に(翻訳の代わりに)トランスクリエーションという言葉を教えてくれました。彼女はそのプロセスをこう説明しています。文章の重要なメッセージを特定することに努め、それを英語の具体的な単語から切り離し、あたかもそれが最初から自分の言語で書かれたように、一から文章を作り上げる、というものです。
Googleのローカライズに関するYaelのインタビューはこちらでご覧いただけます。
例えば、Google Chromeの初期には、クラッシュメッセージが、スタートレックからの名言であるHe's dead, Jimでした(仕事中の方はヘッドホンを使ってください)。
しかし、アメリカ以外の国では、このフレーズはそれほど有名ではありませんし、よく知られてもいません。国によっては、自国の文化圏にある有名な言い回しを選んだり(イスラエルでは絵本からの引用)、ユーモアとは無縁の直接的な表現を選んだり(例えば日本)しています。
たとえローカライズするためのリソースがあったとしても、どの言語であっても、ジョークやスラングはローカライズ担当者の仕事をより複雑なものにしてしまいます。また、ローカライズを外部の業者に委託している場合は、作業時間やコストが増えることになります。
2:技術的なローカライズ
私たちは、そのフレーズがどのような文脈で登場するのかさえ知らずに、大量に翻訳しています。また、ある文脈で翻訳されたフレーズが、別の予期せぬ文脈で再び登場することもあります。
つまり、マイクロコピーが優れていればいるほど、元の文脈だけでなく、他の文脈でもその翻訳がうまくいかない可能性が高くなります。
もし、あなたのローカライズが技術的な内容であるなら、あまり気の利いた言い回しはしない方がいいでしょう。
どのようなローカライゼーションであっても、マイクロコピーは明確かつ直接的であることが重要です。
7. プロのライターがチームにいない場合
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すべての企業が、ライティング業務は専門職の社員が担うべきだと考えるわけではないでしょう。仮にそうだったとしても、言葉の重要な役割が組織に浸透するまでは、まずはわかりやすい文章を心がけましょう。
コンテンツとUXの両方に精通しているプロフェッショナルであっても、デジタルプロダクトにおけるユーモアとウィットの程よいバランスを見つけるのは難しいものです。コンテンツの専門家がいないチームであればなおさらです。
場違いなジョークや複雑な言い回しを避けるため、シンプルでプロフェッショナルな表現にこだわってください。
結論(およびヒント)
ほとんどすべてのデジタルプロダクトには、障害のあるユーザーがいます。
ほとんどのデジタル製品には、複数のグループと、そのユーザーが行動する多くの状況を含むターゲットオーディエンスが存在します。
高齢者のユーザーの割合はすでに高く、さらに増加しています(そして、次は私たちです)。
もしあなたが英語で書いているのなら、それは世界中の読者に向けて書いているのでしょう。
どういう意味?
デジタルプロダクトに、ユーモアや気の利いた表現をどのくらい盛り込むか、また、どこに使うかについては、十分な注意を払う必要があるでしょう。ユーモアを入れる余地があるなら、それは素晴らしいことです。ただ、あらゆる(少なくともほとんどの)状況やユーザーを考慮し、あなたのデジタルプロダクトが何よりもまず役立つものになるよう、心がけてください。
ヒント:どうすればいいのか?
ユーモアの余地があるのなら、大いに結構ですどんどんやってください。ダジャレを使い、ユーザーを大笑いさせ、惚れさせるのです。
しかし、シンプルで役に立つことを言いたいときは、ユーザーを感動させたり笑わせたりすることを考えず、会話を考えるようにしましょう。コピーライティングを考えるのではなく、話すことを考えるのです。
あなたがユーザーの前にいると仮定して、最もシンプルで直接的な方法で、どのようにそれを声に出しますか?
そして、会話文に必要な条件をすべて満たしていることを確認してください。
- ユーザーに対して直接語りかける
- 短く、要領よく
- 日常的な言葉で(弁護士の言葉や 学術的な専門用語は使わない)。
- 自然で流れるような文章であること(念のため、声に出して読んでみてください)